業務委託サロンと正社員サロンの違いは?メリット・デメリットを徹底比較
美容室は雇用形態の違いで大きく「正社員サロン」と「業務委託サロン」の2種類に分かれます。その違いは何なのか?契約内容や勤務形態、入客方法や気になるお給料面など、それぞれを徹底比較しました。
契約内容の違い
正社員サロンでは、美容師はそのお店に正社員として雇用されて給与を受け取ります。
一方業務委託サロンでは、美容師はそのサロンと個人事業主として契約し所属します。つまりプロのプレイヤーとしてサロンの場でプレイを行って、その対価を報酬として受け取るプロ野球選手や芸能事務所と同じ契約となります。
勤務形態の違い
正社員サロン | 業務委託サロン | |
---|---|---|
勤務時間 | 8時間労働+1時間休憩が基本 | 自由にシフトメイクできる |
休み | 月6~8日休みが一般的(土日祝日は原則休めない) | 自由(土日祝日休みもOK) |
朝礼・終礼 | 朝礼、終礼、掃除は原則全員一緒 | 朝礼・終礼はなし、掃除は個々で |
副業 | NGな場合が多い | 原則OK |
正社員サロンは1日8時間労働で月6~8日休みが多い
正社員サロンでは美容師は労働基準法の元、会社のルールに則って勤務します。8時間労働+1時間休憩が基本ですが、掃除や練習、ミーティング等でそれより長時間労働になることが多いです。朝礼、終礼、掃除は原則全員一緒に行います。
休みは、一般的には月6~8日とするサロンが多いです。土日祝日は原則休めません。副業はNGのサロンが多いです。
業務委託サロンは自由にシフトメイクできる
業務委託サロンでは、契約した会社のルールに則って自分でシフトメイクできます。もちろん、週一からの勤務でもOK。土日祝日でも休みが取れます。勤務時間は一日3時間程度の時短勤務も可能です。ただし、サロンによってはお店ルールで「〇時間以上必須」というところもあります。
朝礼や終礼はなく、勤務時間も入店退店、掃除も個々で行います。もちろんWワークも可能です。
業務委託サロンは自由度が高いのが特徴ですが、サロンによっては厳しい「お店ルール」があるところも…。入社前にしっかり確認しましょう。
入客方法の違い
正社員サロンは掛け持ちありきの予約システム
正社員サロンでは基本入客の割り振りは店長が管理します。
掛け持ちありきで予約を取るシステムで、トップスタイリストは最初のカウンセリングとカットのみで、シャンプーやブローなどはアシスタントに任せるという場合がほとんどです。
業務委託サロンは1対1のマンツーマン施術が基本
業務委託サロンでは、サロンが集客したお客様を出勤した順、お客様も入店された順に入客します。
美容師とお客様が1対1のマンツーマン施術が基本ですので、はじめのカウンセリングから、シャンプー、カット、ブローまで全ての工程を一人で行うことになります。
「全ての工程をマンツーマンでやれた方が、お客様満足度が高くなり、指名が付き易くて良い。」というスタイリストさんもいれば、「全ての工程をやるのは疲れる。アシスタントに手伝ってもらいたい。」というスタイリストさんもいらっしゃいます。人によってどちらが合っているのかは異なりますね。
中には「マンツーマンで掛持ち施術」というお店も
業務委託サロンの中には、「マンツーマンで掛持ち施術」というお店もあります。つまり、時間差で入客しながら、カラー放置時間などを利用して、同時に2人~3人のお客様を1人で担当するということです。
仕事が速くかつ容量が良い人にとっては「稼げて良い」となりますが、多くの場合は「1人で複数のお客様を同時に相手をするのは疲れる。」「お客様をどうしても待たせてしまうことがあり、指名が付きにくい。」といった声が目立ちます。
このように同じ業務委託サロンでも働き方が大きく異なりますので、転職を考えている人は気を付けて下さいね。
給料の違い
正社員サロンは固定給25万円+歩合給が多い
正社員サロンの多くは、完全固定給か固定給+歩合給の2種類のいずれかとなります。ただし完全固定給の美容室はごく少なく、カット専門店やヘアカラー専門店等で、属人性が強く求められない形態に多いです。
ヘアデザインを提供するいわゆる普通の美容室は固定給+歩合給となります。歩合のバック率は売上の10~30%程。さらに、バックがつくのは指名客を担当した場合のみで、フリー客の分は歩合手当が付かない場合が多いです。
固定給は25万円前後が一般的ですので、いかに指名客を沢山こなせるかが鍵になってきます。
言い換えれば、沢山のアシスタントに手伝ってもらえて、沢山の指名客をかけもちして施術できるスタイリストなら、沢山稼ぐことが可能となるのです。
例.固定給25万円+歩合30%の美容室の場合
指名売上 | 給与 |
---|---|
月300万円 | 115万円 |
月50万円 | 25万円 |
固定給が25万円の美容室で指名客の歩合が30%の場合、指名売上を月間300万円立てられるスタイリストなら、115万円の給与となります。いわゆる都内一等地立地の美容室か、郊外大型店でアシスタントが沢山いるお店のTOPスタイリストなら可能な数値です。
月間指名売上額が基準未満だと、給与は増えない
正社員サロンでは指名売上がお店の基準額に達していない場合は給与に反映されないのが一般的。60万円くらいが下限の場合が多いので、月50万の指名売上の方は給与は固定給額のままの25万円ということになります。
業務委託サロンは40%~60%バック
業務委託サロンは売上に対して40%~60%のバック率のサロンが多いです。ただ、バック率が税込みなのか、税抜きなのか、材料代込みか材料代抜きなのかで、実際に受け取る報酬が変わってくるので注意が必要です。
例.業務委託サロンの報酬例
報酬形態 | 売上 | バック率 | 報酬 | 消費税支払い額 |
---|---|---|---|---|
報酬が税込み計算のサロン | 88万円 | 50% | 440,000円 | -22,000円 |
報酬が税抜き計算のサロン | 400,000円 | -20,000円 | ||
報酬から材料費を抜かないサロン | 440,000円 | -22,000円 | ||
報酬から材料費を抜くサロン | 396,000円 | -19,800円 |
2023年10月からインボイス制度がスタートしました。課税事業者の場合は確定申告後に消費税を支払う必要があるので、その場合の消費税額も表に入れました。
よって、課税事業者の方は、「報酬」から「消費税額」を引いた分が自分の報酬になると考え、サロン報酬を見比べてみましょう。なお上記の表では、みなし仕入率5%にて算出してます。
最低保証給とは?
業務委託サロンによっては最低保証給を設けているサロンもあります。最低保証給とは、業務委託サロンで完全歩合で働くことに不安がある人のための制度で、サロンが定める一定の勤務時間や勤務日数の条件を満たせば、報酬を保証してくれるというものです。
私が経営している業務委託美容室では、月8日休み勤務で30万円、月4日休み勤務で40万円の保証給を出しています。
保険・年金の違い
正社員サロンは社会保険完備が多い
正社員サロンは「社会保険完備」のお店が多いです。「社会保険完備」とは、「健康保険」、「厚生年金保険」、「労災保険」、「雇用保険」の4つの社会保険すべてに加入できることを意味することがほとんどです。 ただし、小さな個人経営のサロンは今だに「雇用保険」や「労災保険」しか入っていないところが多いので、募集要項はしっかり確認した方が良いでしょう。
業務委託サロンは社会保険はないので、自身で保険に入る必要がある
業務委託サロンでは、美容師はあくまでも個人事業主で雇われていないため、いわゆる「社会保険」はありません。そのため、ご自身で国民健康保険や国民年金に入る必要があります。
年金に関しては、厚生年金と掛金・受け取り額が同等の「国民年金基金」に入る方が多いです。その他、付加年金や小規模企業共済といった公年金制度は、税制面でさまざまな優遇制度があるため、フリーランス美容師や業務委託サロンで働く美容師さんに利用されています。
保険に関しては「フリーランス協会」や、その他様々な組合や団体が個人事業主向けの収入補償保険を用意していたり、業務委託サロンによっては個人事業主向けの収入保険を完備していたりします。
病気や怪我によって収入が減るのが不安な場合は、予め検討する必要があります。私の経営する美容室Anphiでは、収入保険に入りたい場合、会社が保険料の半額を負担致します。
Anphiの手当・保険について育休について
正社員サロン美容師は出産一時金、出産手当金が受け取れる
正社員サロンの美容師は出産する場合きちんと申請をすれば、国から出産一時金、出産手当金(標準報酬日額の3分の2に相当する金額)、育児休業給付金がもらえます。育児休業給付金は産後休業期間(産後8週間以内)の終了後、その翌日から子どもが1歳となる前日までが支給期間。条件を満たすことで最大2歳まで延長することができます。
期間 | 支給額(給与に対する%) |
---|---|
育児休業開始から180日以内 | 67% |
育児休業開始から181日目以降 | [休業開始時賃金日額×支給日数(通常は30日)]×50% |
業務委託美容師が受け取れるのは出産一時金のみ
業務委託サロンの場合、そこで働く美容師が受け取れる給付金は出産一時金のみです。出産一時金とは、厚生労働省が出している給付制度で、一人の出産につき50万円が支給されるもの。これは、会社員でも独立開業した個人事業主でも支払われるもので、個人事業主の場合は国民健康保険から支払われることになります。基本的には病院にて手続きを行います。
必要な手続き・確定申告や税金などの違い
正社員サロンは手続きは会社が行ってくれる
正社員サロンでは年に1回年末調整があり、書類に記入し、控除したい保険等の書類を提出すれば、手続きは会社が行ってくれます。
業務委託サロンは初めの開業届けと年1回の確定申告が必要
業務委託サロンで働くには、働き始めた1ヵ月以内に個人事業の開業届出をご自宅の最寄りの税務署に提出する必要があります。手続きはごく簡単で、住所・指名・個人番号・職業等を記入すればOK。手数料はかかりません。
また、毎年2~3月の確定申告期間にご自身で青色もしくは白色の確定申告書類を税務署に提出する必要があります。不安な場合は税理士に依頼し有償で代行してもらうか、最寄りの青色申告会に相談すれば申告の仕方を指導してくれます。
受け取った報酬から、経費と控除を引いた額が収入に
業務委託サロンで働く場合、受け取った報酬から経費と控除を引いた額が収入になります。例えば、ハサミや作業着としての洋服代や練習用のウィッグ代や交通費、美容師仲間やお客様との交流の為の交際費や研修旅行費、スマートフォンの使用料等、税務署に認められる範囲でなら経費計上が可能です。その分、税金の支払い額が正社員で雇用されている場合と比べて少なく済み、お得です。
その他、国民年金はもちろん、「厚生年金」の代替である「国民年金基金」や付加年金、小規模企業共済、iDeCo等は、確定申告時に申告すれば、掛金が全額控除となり、老後の備えになるのはもちろんのこと、支払う税金をかなり圧縮できます。
その他、民間の生命保険や個人年金、病院代や薬代などさまざまなものが控除の対象となります。
また、夫の扶養に入ったままでいたい主婦美容師さんは、年収を130万円未満にする必要があるため、正社員やパート雇用だとあまり稼ぐことができません。一方、業務委託サロンなら経費や控除で報酬を圧縮できる為、報酬が130万円以上でも、課税所得さえ130万円未満なら、扶養からはずれる心配はありません。
インボイス制度の導入により消費税の税額控除が認められなくなることも
以前は、年の報酬額が1,000万円以下の個人事業主は「免税事業者」とみなされ、消費税の納税義務が免除されていました。
しかし、2023年10月1日に導入された「インボイス制度」により、美容室によっては報酬額が1,000万円を超えない美容師にも「課税事業者」になることを求めるケースが出てきました。
そういった業務委託サロンに勤める場合は、確定申告後に所得の5%(みなし仕入れ率)の消費税支払いが生じます。
業務委託サロンの中でも、美容師に「課税事業者」になることを求めるサロンと求めないサロンがあります。これから転職を検討する際は、その点も確認することをおすすめします。
個人事業主だとローンが組めない?
「個人事業主だと、車や家のローンが組めない。」と言う方もいらっしゃいますが、個人事業主でもしっかり確定申告さえしていればローンは組めます。一般的な業務委託サロンのスタッフは3,000万円~5,000万円程で住宅ローンを組んでいる方が多いです。
アシスタントの有無
正社員サロンはほとんど必ずアシスタントが在籍しています。大手美容室チェーンなら毎年新卒を30人採用することもありますし、個人店でも1人くらいはアシスタントがいますよね。大抵の場合、営業時間終了後に先輩に練習を見てもらうというのが一般的なスタイルです。
一方、”業務委託サロン=アシスタントがいない”というのが以前は一般的でした。それもあって、”業務委託サロン=マンツーマン施術”が当たり前で、当時は正社員サロンから中途スタイリストが転職してくることで人事が成り立っていました。
しかし最近では、業務委託サロンでもアシスタントを雇用するお店がかなり増えてきています。そういった業務委託サロンは、スタイリストは業務委託契約ですが、アシスタントは正社員雇用という雇用形態をとっていることが多いです。
研修制度の違い
正社員サロンは研修制度があるサロンが多いですが、ないサロンもあります。
業務委託サロンも、サロンによって研修制度があるサロンとないサロンに分かれます。有るサロンは、外部講師を招いての講習会をやったり、自発的に「教えたい」というスタッフの有志を募って勉強会を行ったりしています。
面貸しと業務委託の違い
『業務委託サロン』と混同されがちなのが『面貸しサロン』『シェアサロン』です。
業務委託サロンは、サロンが集客したお客様を美容師さんが受託して施術を行い、その施術代金からサロンが定めた報酬を受け取る形態です。
一方で、面貸しサロン、シェアサロンは、読んで字のごとく「場所貸し」なので借りた場所代を払えばOKです。ただし、集客は自分で行わなければいけません。シェアオフィスとほぼ同じ概念ですね。
メリット・デメリットまとめ
それでは最後に業務委託サロンと正社員サロンのメリット・デメリットを箇条書きでまとめておきます。
正社員サロンで働くメリット
- アシスタントに作業を手伝ってもらえる
- 社会保険完備の場合が多い
- 産休・育休時に国からお金をもらえる
- 確定申告等をする必要はない
正社員サロンで働くデメリット
- 歩合率が10~30%程度と低い
- 指名客がつけられなければ稼げない
- 土日休みはできない
- 朝礼、終礼、ミーティングなど参加は必須
- 副業はできない
- 入客は掛け持ちなので、一人ひとりのお客様に向き合いずらい
業務委託サロンで働くメリット
- 歩合率が40~60%と高い
- マンツーマン接客なので一人ひとりのお客様に向き合える
- 時短勤務やWワークが可能
- 土日休みも可能
- 朝礼、終礼などは基本ない
- 報酬から経費を引いた額が収入となる
- 年の報酬が130万円を超えても、経費で圧縮して所得が130万を下回れば扶養から外れずに済む
業務委託サロンで働くデメリット
- 年に1回確定申告をする必要がある
- 産休・育休時には国からお金は支給されない。出産一時金のみである
- アシスタントがいないサロンでは、基本全工程を一人で行う必要がある
上記のような業態毎の違いはもちろん、店舗毎にも差があります。ぜひ、ご自身の理想の働き方や生活スタイルに合うサロンを見つけて下さいね。