国民年金基金にフリーランス美容師は入るべき?メリット・デメリットを解説

更新日:2024/02/12
美容室社長中村英二

フリーランスや業務委託で働く美容師は、国民年金基金に入るべきなのか?国民年金基金に加入するメリット・デメリットや、iDeCo、小規模企業共済等との比較など、分かり易く解説します。実際にいくら掛けたら、いくら受給できるかの年金シミュレーションは要チェックです!

この記事を書いた人

中村英二

神奈川・東京に大型美容室Anphiを複数店舗展開する会社、株式会社イーグラント・コーポレーションの社長。「美容師ファースト」を掲げ、日々より良いサロン創りに奮闘中!

国民年金基金とは

国民年金基金は、自営業・フリーランスが安心して老後を過ごせるように、国民年金に上乗せして加入できる公的な年金制度です。

ご自身で決めた額(月68,000円まで)を納め、60歳以降に年金として受け取ることができます。

国民年金基金の加入資格

国民年金基金の加入資格は20歳以上60歳未満の国民年金第1号被保険者(自営業・フリーランスなど)で、加入は任意。国民年金保険料を納付している方に限ります。

自営業&フリーランスが会社員の「厚生年金」の代わりに加入できるのが国民年金基金

下記は、自営業&フリーランスと会社員の年金を比較した図です。

「国民年金(老齢基礎年金)」は全国民共通で加入する年金制度で、きちんと支払っていれば自営業・フリーランスの方も、会社員の方も65歳以降受け取ることができます。

「老齢厚生年金」は会社員のみが加入することができます。これは会社員が給料から毎月「厚生年金保険料」を天引きされた分と会社が保険料を折半した分が積み立てられて、原則65歳以降に受け取ることができる年金です。さらに大企業や公務員は「企業年金」などもあります。

フリーランス美容師はこれらの厚生年金には加入できません。その代わりに加入できるのが「国民年金基金」です。

国民年金は最大6.5万円、平均5.6万円しかもらえない

「国民年金をもらえるのだから、心配しなくて良いんじゃない?」と言う方もいるかとは思います。ここで国民年金の受給額を見てみましょう。

最新の令和4年4月分からの国民年金受給額の満額は月64,816円(年額777,800円)です。20歳から60歳までの40年間毎月欠かさず国民年金を支払っていても、これだけしかもらえないのです。さらに平均受給額はもっと低く、ここ数年5.5万円~5.6万円程度です。

国民年金だけだと、とてもじゃないけど生活していけませんよね。こような現実を踏まえ、国は自営業やフリーランスでもより豊かな老後を過ごすことができるように国民年金基金制度を設けたわけです。

国民年金基金の型の種類

国民年金基金には7種類の型があります。1口目は終身年金A型またはB型から、2口目以降は7種類から自由に組み合わせて選ぶことができます。掛金の上限は月68,000円です。

終身年金

A型もB型も65歳以降、死ぬまで年金が支給される「終身年金」です。1口目は、A型かB型のいずれかを選択します。A型とB型の違いは「保証期間」の有無です。

種類 受給開始年齢 保証期間
A型 終身年金 65歳 15年間
B型 なし

A型は、15年の保証期間があり、年金受給前または保証期間中にご本人が亡くなられた場合、遺族の方に一時金が支給されます

一方B型は保証期間がない掛け捨てタイプです。ご本人が亡くなられたら時点で、その後年金は支給されませんし、支払った保険料は戻ってきません。その分、支払う年金保険料は安くなります。

1口目は途中で減額したり、型を変更することはできないので、よく考えて決める必要があります。

ご家族がいる場合や、将来家庭をもつことを考えているならA型がおすすめです。

確定年金

I型、Ⅱ型、Ⅲ型、Ⅳ型、Ⅴ型は確定年金、つまり受給期間が定まっている年金です。I型とⅢ型の受給期間は15年、Ⅱ型とⅣ型は10年、Ⅴ型は5年です。2口目以降は、先ほどの2種類に加えてこれらの5種類も選べます。

種類 受給開始年齢 保証期間
I型 確定年金 65歳 15年間
Ⅱ型 10年間
Ⅲ型 60歳 15年間
Ⅳ型 10年間
Ⅴ型 5年間

A型同様に保証期間があり、受給前または保証期間中にご本人が亡くなった場合は、遺族の方に一時金が支払われます。I型とⅢ型の保証期間は15年、Ⅱ型とⅣ型は10年、Ⅴ型は5年です。

支給開始年齢が方によって異なり、I型とⅡ型が65歳支給開始、Ⅲ型とⅣ型、Ⅴ型が60歳支給開始となっています。

掛金×受給額早見表

掛金と受給額が型毎に異なるのはもちろん、加入する年齢や性別によっても異なります。

男性

女性

女性の方が平均寿命が長い為か、掛金は女性の方が少しずつ高いですね。また当然ですが、若い頃に加入した方が月毎の掛金額は安く済み、負担が軽いです。

メリット

終身で受け取れる

国民年金基金の最大のメリットは「終身」つまり、死ぬまで年金を受け取れるという点です。

人生100年時代と言われている昨今、死ぬまで毎月定額を受け取れるというのは嬉しいですよね。長生きすればするほど、お得になります。

このメリットを活かすなら、選ぶべきはA型かB型のみになりますね。

年金額が決まっている

支払う掛金は自分で決めることができ、加入時の掛金額は払込期間終了まで変わりません。(加入後のプラン変更は可能)掛金によって受け取れる年金額も決まっています。いつからいくら受け取れるのかが予め分かると、将来設計がし易いですよね。

万が一のときは家族に一時金(B型を除く)

国民年金基金はB型をのぞくすべての方が「保証期間」があります。受給開始前や受給開始後も保証期間中なら、万が一ご本人が亡くなっても家族に遺族一時金が支給されますので、掛け捨てになりません。

税金が優遇される

国民年金基金の掛金は全額社会保険料控除の対象です。確定申告時に支払う所得税が軽減されます。また、受け取る年金も公的年金等控除の対象となります。

デメリット

脱退が難しい

国民年金基金は一度加入したら、自己都合で脱退や解約が出来ません。納付が出来なくなった場合は納付の一時中断をする形になります。その場合は未納期間分、将来の受け取れる予定の年金額が減額されることになります。

予定利率が低い

国民年金基金の予定利率は2022年5月現在1.5%と高くありません。メガバンクの定期預金の金利は0.002%ですので、銀行に預けるよりは良いですが、民間の保険の個人年金保険だと利回り5%前後もありますから、それに比べるとやはり低いですね。

インフレに対応できない

受け取れる年金額が決まってしまっているため、インフレで貨幣価値が下がってしまうと当初想定していた生活の確保には役立たないことになります。

例えば、加入当時は缶コーヒーが120円だったのが、受給開始時には300円になっている場合も、受け取れる年金額は変わりませんので、想定していた生活をるすのが難しいということです。

破綻のリスクがある

基金の加入者は年々減少してきており、将来基金が存続できなくなる可能性も0ではありません。その場合は受給できる年金額は予定より少なくなり、掛金の全額が戻ってくる保証もありません。

民間の保険会社が提供する保険も、特定の会社員が加入することができる「企業年金」も同じリスクがあります。

2010年にJALが経営破綻した際、企業年金の受給額がOBは3割減、現役は5割減になった話は有名ですよね。国民年金基金は厚生労働大臣の認可を受けた公法人ではありますが、万が一存続が難しくなれば、JALと同様のことが起きる可能性があるわけです。

付加年金・iDeCo・小規模企業共済との比較

国民年金基金以外にも、国が推奨する年金制度で、フリーランス美容師が加入できるものがありますのでご紹介します。

付加年金

毎月の国民年金保険料に付加保険料を上乗せして納めると、将来的に受け取れる年金額に払い込んだ月数に応じた金額が加算される年金制度のことです。

掛金

掛金は月400円です。例えば、付加年金に40年加入すると、400円×40年×12カ月=192,000円が支払う保険料の総額です。

受給額

毎年200円×付加保険料納付済月数が付加年金として受け取れます。

先ほどの例同様、付加年金を40年間払い続けた場合、200円×40年×12カ月=96,000円を毎年受け取ることができ、これは生涯受け取ることができます。2年間受け取ると受け取った額が支払った額を上回る、大変お得な制度です。

受給開始年齢

国民年金同様、65歳以降から受け取ることが可能です。

付加年金は国民年金基金と重複して加入できない

付加年金は国民年金基金と重複して加入することはできません。掛け金が少ない分、受け取れる額も小さいですので、収入的に国民年金基金に加入する余裕がない方への加入をおすすめします。

フリーランスで駆け出しのころはまずは付加年金に入り、収入が安定してきたら国民年金基金に切り替えるという方も多いですね。

iDeCo

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、自分が拠出した掛金を、自分で運用して資産を形成する年金制度です。

掛金

月々5,000円から始められ、掛け金額を1,000円単位で自由に設定できます。

受給額

掛金とその運用益との合計額を給付として受け取ることができます。つまり、受け取れる年金の額は運用の成績次第となります。

国民年金基金の利回り1.5%を優に超える可能性は十分あります。一方で、運用成績が悪いと元本割れする可能性もあります。

受給開始年齢と受給方法

60歳以降受け取り可能になります。通算加入期間に応じて受給開始年齢は変わってきます。

受け取りは一時金として一括で受け取ることも、有期年金として受け取ることも可能です。有期年金として受け取る場合、期間は5年以上20年以下となります。

税制面での優遇

掛金は国民年金基金同様に全額所得控除の対象になります。また運用益も非課税です。年金として受け取る場合は「公的年金等控除」、一時金の場合は「退職所得控除」の対象となり、税制面で大きな優遇を受けられます。

小規模企業共済

小規模企業共済は、国の機関である中小機構が運営している制度で、小規模企業の経営者や役員、フリーランスなどの個人事業主のための「退職金制度」です。個人事業主が廃業したり、小規模法人の役員が退職した場合等に解約し、掛金額に応じた共済金を受取ることができます。

掛金

月々の掛け金は1,000円~70,000円まで、500円単位で自由に設定が可能です。加入後も増額・減額ができます。

共済金額

小規模企業共済制度では、掛金の納付月数および共済事由ごとに、受け取れる基本共済金が規定されています。あくまでも「退職金制度」ですので、廃業以外の理由での解約では、受け取れる共済金額が少なくなります。

特に、掛金納付月数が240カ月未満で、かつ廃業や病気などではない「任意解約」をした場合は、掛金合計額を下回ってしまい、元本割れしてしまいますので、注意が必要です。

受取方法

小規模企業共済は共済金を一括受取が基本で、要件を満たした場合に分割受取(期間10年または15年)や一括受取と分割受取の併用が可能となっています。

税制面での優遇

掛金の全額を課税対象所得から控除できるため、高い節税効果があります。さらに、共済金を受け取る際も税制面で優遇され、退職所得扱いまたは公的年金等の雑所得扱いとなります。

国民年金基金・小規模企業共済・iDeCoを比較

国民年金基金iDeCo小規模企業共済
加入対象者自営業・フリーランス等20歳以上60歳未満の国内在住者小規模企業の経営者・役員、個人事業主
掛金上限合算して月額68,000円月額70,000円
所得控除種類社会保険料控除小規模企業共済等掛金控除
受給方法(期間)基本終身年金で確定年金もあり確定年金(5年以上20年以内、一括受取も可能)①一括受取②分割受取③一括受取と分割受取の併用
受給額予め定められた額運用成績により変動予め定められた額

手堅くいくなら、国民年金基金や小規模企業共済。高い利回りを狙いたいならiDeCoですね!

年金シミュレーション

毎月どのくらいの掛金を納め、将来いくら受け取れるようにするべきなのでしょうか?フリーランス美容師の年金をシミュレーションしてみましょう。指標として、厚生年金の掛金額と受給額を参考に考えます。

正社員雇用の美容室で40年間勤め、平均年収が500万円だった場合

40年間正社員雇用の美容室で勤め、その間の平均年収が500万円だった場合、厚生年金の受給額の目安は月9.4万円※です。

※平成15年改正以降の「平均標準報酬額×5.769/1000×加入月数」で計算。百の位以下切り捨て。

国民年金を満額の6.5万円とすると、この方は65歳以降に159,000円を毎月受け取れることになります。

この40年間、給料から厚生年金保険料は天引きされています。厚生年金保険料は現在収入の18.3%と固定されており、内半分の9.15%が本人負担です。すると、この美容師さんは下記の金額を毎月保険料として支払っている計算となります。

500万円×0.0915÷12カ月=38,125円

40年間合計では下記の金額を支払うことになります。

500万円×0.0915×40年間=18,300,000円

そう、1,830万円を保険料として支払っているのです。それでようやく65歳以降に月9.4万円を受け取れます

月9.4万円の受給で1,830万円を回収するには約16年かかります。81歳以上生きて初めてプラスの収入になる計算ですね。

業務委託美容室で40年間勤め、平均年収が500万円で、その間国民年金基金に加入していた場合

20歳から60歳までの40年間業務委託サロンやシェアサロンでフリーランス美容師として働いた場合で、国民年金基金のみに加入していした場合の掛金と年金受給額をシミュレーションしてみましょう。先の例にならって40年間の平均年収500万円と仮定。節税対策を色々と行って平均課税所得250万円の方の場合とします。

国民年金基金で月9.4万円を受け取るには、毎月いくら掛ける必要があるのでしょうか?

終身A型のみの場合

掛金
1口目A型7,350円
2口目以降A型8口29,400円
合計36,750円
受給額
年額1,233,800円
月額102,800円

今回は厚生年金との比較ですので、終身タイプでかつ万が一の場合に遺族年金が入るAを8口の場合でシミュレーションしました。男性で平成14年4月生まれの場合です。

今年から40年間、国民年金基金にA型を9口で毎月36,750円の掛金を支払い続けた場合、年額1,233,800円、月102,800円の年金が受給できることになります。これとは別に国民年金を毎月16,590円支払うので、毎月の掛金の総額は53,340円です。

65歳以降受け取れる年金は、国民年金+国民年金基金で、月167,800円の受給となります。

控除により実際の年間掛金は圧縮できる

国民年金基金のメリットは掛金が全額課税所得控除の対象となる点です。

課税所得金額が250万円の場合に上記のプランで加入すると、所得税と住民税の合計で年間89,126円(概算)軽減されます。さらに国民年金の支払いも全額控除の対象ですので、合わせると年間128,016円(概算)が控除額となります。

税の軽減見込額を引いた国民年金基金の実質年間掛金は351,874円となり、月額になおすと約29,322円の掛金で済みます。

国民年金の掛金やその分の控除等を踏まえると、国民年金+国民年金基金の実質掛金は、月額約42,600円となりますね。

年収500万円の正社員美容師の個人が負担する厚生年金(国民年金含む)保険料は月38,125円で、受給額が月159,000円です。

フリーランス美容師が同等の年金を国民年金基金を利用して受給しようとすると、保険料は月42,600円で、受給額が月167,800円です。これらの数字から、国民年金基金を上手に利用すると、厚生年金と近いリターンを得られることが分かりますね。

ただし、加入時期や性別、年齢によって利率は変わってきますから、加入前に現時点の利率をしっかりチェックして下さい。国民年金基金の公式サイトから簡単にシミュレーションができますよ。

B型やI~Ⅴ型などを選ぶと掛金は割安に

「年収500万円で月額42,600円の掛金を支払うのはちょっと厳しいな…。」という方は、型をA型ではなく、保証期間のないB型にしたり、受け取る期間に限りがある年金のI~Ⅴ型などを選ぶというのも一つの方法です。保証期間がなかったり、受給期間が限られている分、掛け金は安く済みます。

このように、厚生年金と近いリターンを得られる国民年金基金ですが、先にお伝えした通り、国民年金基金の破綻のリスクなどを考慮すると、保険料の予算全てを国民年金基金に回すのは得策ではありません。また、合計受給額が月167,800円では足りないとお考えの方もいらっしゃるでしょう。

その場合におすすめしたいのが、国民年金基金+小規模企業共済+iDeCoを組み合わせて老後に備える方法です。

分散投資でリスク分散を

安全な投資の原則である分散投資をすることをおすすめします。国民年金基金をベースに堅実な積み立てを行い、小規模企業共済を退職金替わりにし、残りの予算はiDeCoに当てるという具合です。そうすることでリスクを分散することができます。

また、あたなの年収・予算にもよりますが、国民年金基金とiDeCoは掛金の総額が合計で68,000円ですが、小規模企業共済は別枠で70,000円が上限ですので、これらの3つを合わせれば、月額合計138,000円まで掛けられます。

いずれも掛金の額は途中で変更できますから、若くて年収が低い内は掛金を抑えて、年齢やライフスタイルに合わせて徐々に掛金を増やしたり、投資商品を変更するのが良いでしょう。

【結論】フリーランス美容師も年収の約1割は老後の備えに!国民年金基金も上手に活用して!

国民年金基金や、付与年金、小規模企業共済、iDeCoについて解説し、年金シュミレーションをしましたがいかがでしたか?

もちろん、上記以外にもさまざまな民間の保険商品があり、それぞれメリット・デメリットがあります。

大事なことは、フリーランス美容師になって、正社員美容師時代よりも手取りが良くなったからといって、お金を使い込むのではなく、収入の9.15%以上は貯金や資産運用に当て老後に備えることです。

若い内から備えれば、月額の負担は少なくても、将来一定のお金を受給できるようになります。特に「お金があるとついつい使ってしまう…。」というに方こそ、こういった国民年金基金等を活用していただきたいですね。

この記事を監修した社労士|2022年11月17日監修

岡佳伸 特定社会保険労務士

社会保険労務士法人岡佳伸事務所代表。大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員としてキャリア支援や雇用保険給付業務や助成金関連業務に携わり、現在は開業社会保険労務士として活躍中。

各種講演会の講師、日経新聞等への取材記事掲載、NHKのTV番組に出演した経歴も有する。

関連記事