美容室の創業計画書の書き方|審査で落ちないコツは?

更新日:2024/03/21
美容室社長中村英二

美容室を開業する際、⾃⼰資⾦だけで⾜りない場合は、融資を受ける必要があります。最もポピュラーな資⾦調達先は、国の銀行である日本政策金融公庫。公庫の「新創業融資制度」を利⽤すれば、無担保・無保証⼈、なおかつ低⾦利で資金調達が可能です。

ただ、この創業融資の審査通過率は 50〜60%ほどと言われており、しっかり準備をしてから臨まないと融資を受けられません。

このページでは、美容室をこれから創業予定の⽅が⽇本政策⾦融公庫で融資を受けるための創業計画書の書き⽅や失敗しないためのポイントを詳しく解説します。

美容室の創業計画書の書き方例

美容室の創業計画書サンプル

上のサンプルは、美容師さんが結婚を機に、同じく美容師資格をもつ奥さんと、元職場の同僚の3⼈で美容室を開業することを想定して記⼊した例です。

こちらをご覧いただくと分かる通り、創業計画書には、創業の動機、経営者の略歴、取扱商品・サービス、取引先・取引関係等、従業員、借⼊の状況、必要な資⾦と調達⽅法、事業の⾒通し(⽉平均)、⾃由記述欄の全9項⽬があります。

どのように書いたら、公庫で希望額を融資してもらえるのでしょうか? ここから項⽬毎に悪い例・改善例なども交えながら書き方を解説していきます。

1創業の動機

創業計画書の⼀番初めにあるのが「1 創業の動機」の項目です。ここでは思いつきではなく、以前から考えて創業の準備をしていたこと、経営者になるために⼗分にスキルを⾝に着けていること、なぜ創業するのか、創業して実現したい事などを書きましょう。

【悪い例】

上の悪い例だと、動機が漠然としている感じがしませんか? 「お客様から独⽴をすすめられた」では、主体性が感じられませんし、他の⽂章からも経営者になるためのスキルが⾝に付いていそうに感じられません。

「お客様からすすめられ、たまたま良さそうな物件が出たから創業したいのかな?」と融資担当者に受け取られかねない⽂章です。

【改善例】

改善例では、勤務先でしっかり経験とスキルを⾝に着け、創業のための準備を重ねてきたこと、創業することに対して家族の理解があること、経営⽅針や物件の⽴地選定理由を具体的に記⼊しています。

2経営者の略歴等

「2 経営者の略歴等」の項目では、専門学校の卒業年月日や勤務先、勤務年数を記入します。勤務時代に任されていた業務や役職、コンクールの実績なども合わせて明記しましょう。

【悪い例】

まずは悪い例から見てみましょう。こちらには、勤務先や勤務年数が記載されているだけで、特にあなたの強みが伝わってきません。

【改善例】

改善例では、勤務時にコンクールで入賞したことや、店長として勤務し、店舗の売上増加を達成したことなど、具体的な役職や実績を記載しています。

このように実績を具体的に書くことで、創業後の事業の成功率が高いとアピールしましょう。

また、「美容師免許」や「管理美容師資格」などの美容室経営に役立つ資格を持っている場合は、その旨も記載します。

なお、この略歴で1~2年に1回勤務先を変えている等の記載がある場合、融資面談でその理由を聞かれる可能性が高いです。

融資担当者に「我慢が足りなさそうな人だな。」とか、「人間関係のトラブルを頻発しているから、複数人の店舗マネジメントには向かないのでは?」などと思われないように、きちんと理由を説明できるようにしておいてくださいね。

3取扱商品・サービス

「取扱商品・サービス」の項目では、メニュー価格や商品価格、具体的なセールスポイント、販売戦略などを記載します。

【悪い例】

一番上の①、②、③の部分には、売上シェア率が高いと予想されるメニューや商品名と価格を書きましょう。

ここでありがちなのが「なんとなく、現勤務先の顧客に来てもらう予定だから、今の職場と同価格にする。」というパターン。たしかに、現勤務先の顧客に来てもらうことを考えると、現勤務先の価格より高くなるのは客離れのリスクがあるため避けた方がいいでしょう。

ただ、顧客が全員来てくれるとは限りませんし、初めは来てくれてもしばらくすると自然失客する可能性もあります。そう考えると新規集客も視野に入れる必要があります。つまり、単純に現職場と同じ価格にするのではなく、近隣の競合店と比べて価格を決めていく必要があるということです。

融資面談時には、「なぜこの価格にしたのか。」「競合店と比べて高いのか安いのか。」などを聞かれる可能性があります。しっかりリサーチして、論理的に返答できるようにしておきましょう。

できるだけ具体的に、たくさん書いてアピールを

よく書きがちなセールスポイントが「アットホームな雰囲気の店」ですが、それだと漠然としていて伝わりづらいです。ここは修正した方が良いでしょう。また、セールスポイントや販売戦略などは、3行目まで書くことをおすすめします。

もし「セールスポイントや販売戦略は、3行も書くことがないな~」と悩んでしまうのなら、それはあなたのお店に強みがないということ…。厳しいことを言うようですが、今一度お店のコンセプトや売りを考え直すことをおすすめします。

【改善例】

改善例では、セールスポイントや販売戦略、競合・市場などについて、具体的に書いてあります。

例えばセールスポイントでは、材料や施術のこだわりポイントを書き、他サロンとの差別化を図っていることをアピール。

販売ターゲット・販売戦略では、現勤務先の指名客をあてにするだけでなく、SNSなどを積極的に活用したり、ホットペッパーなどで口コミを増やすための施策を行い、新規集客にも力を入れる旨を明記しました。

「競合・市場など企業を取り巻く情報」は、書く内容を迷うかもしれませんが、例えば駅の乗降客数はネットで調べられますし、競合になりうる美容室の数もネットで検索すればだいたい分かります。改善例のように具体的な数字を記載して下さいね。

調べた具体的な数字を別紙の資料にまとめるのも◎

競合店のメニュー価格や打ち出しなどを、別紙でA4一枚にまとめたものを添付すると、「きちんと調べているな」と融資担当者に好印象を抱いてもらい易いでしょう。

4取引先・取引関係等

「4 取引先・取引関係等」では、まずお店に来てもらいたいお客様増を具体的にイメージできているかが問われます。

材料の仕入れ先の目途が立っていないと、原価率も利益額も算段が付きませんから、事前に複数社から見積りを取って決めておく必要があります。ここが具体的であれば、事業計画書の数値の裏付けにもなり、「創業へ向けて十分な準備をしている」と評価されるでしょう。

【悪い例】

「販売先」は、美容室の場合は「一般個人」でシェア率は「100%」と記載しましょう。ただし、「一般個人」だけだと見込み顧客がどのくらいなのかがイメージできませんので、できるだけ具体的に書いた方が良いでしょう。

【改善例】

改善例では、「販売先」の欄に、見込み客がいることをアピールするために「現勤務先の指名顧客約約200人」と記載し、さらにお店のターゲット層の性別と年代を追記しました。

「仕入先」についても、修正例の「現勤務先の仕入先」のように、関係性を書けるとベターですね。

この項目の「取引先」と、先の「3 取扱商品・サービス」の「セールスポイント」や「販売ターゲット・販売戦略」「競合・市場など企業を取り巻く環境」は、相関関係がありますので、整合性があるように注意してくださいね。

5従業員

「5 従業員」に関しては、あなたが従業員を雇う場合のみ記入すればOKです。3カ月以上継続雇用を予定している従業員数を記入しましょう。その内、家族やパートの従業員がいる場合は、表の右側にその人数を記入してください。

6お借入れの状況

「6 お借入れの状況」では、あなたが現在住宅ローンや車のローン、カードローン、教育ローンを組んでいる場合に、その借入残高と年間返済額を記入してください。特にローンは何も組んでいない方は、未記入でOKです。

7必要な資金と調達方法

「7 必要な資金と調達方法」では、表の左側に「必要な資金」の内訳を、右側に「調達方法」の内訳を記入しましょう。

この「必要な資金」の合計額と「調達方法」の合計額は一致させる必要があります。

必要な資金

「必要な資金」の項には、「設備資金」と「運転資金」を記入します。金額は何となく記入するのではなく、しっかり調べて、見積りを取った上で書かなければいけません

設備資金

「設備資金」には、内外装工事費や、セット椅子・シャンプー台などの美容機器、備品、物件取得費(保証金・仲介手数料・前家賃・礼金)を書きます。

内外装工事費については、面談時に「2社以上から見積書を取っているか。」「妥当な金額・相場観をつかんでいるか。」「美容室の内外装工事の実績がある工事業者か。」を確認される可能性が非常に高いです。(特に100万円以上のケースでは見積書を要求されることが一般的です)

また、物件取得費(保証金・仲介手数料・前家賃・礼金)についても、家賃がその地域の相場と比べて妥当かをきちんと把握しておきましょうネットで購入できるものの場合には通常、ネット上の販売価格でもOKです。

運転資金

「運転資金」は、開業初めの内は赤字になってしまっても資金が不足しないように、余裕を持たせておくことをおすすめします。

目安は、開業後に固定費として毎月かかる【家賃】+【広告費】+【従業員への給与】の合計額2~3か月分です。

「運転資金」は「8 事業の見通し」との整合性をとって

「運転資金」の欄を書く前に、収支計画を考えて「8 事業の見通し」に記入することをおすすめします。なぜなら、この2つの金額の整合性が取れていないと、審査通過が難しくなってしまうから。

例えば、運転資金として家賃20万円の2か月分の40万円を計上しているのに、「8 事業の見通し」の経費欄に家賃25万円と記入されていたらおかしいですよね。融資担当者からすれば「この人お金の管理が適当なのかな?」と思われてしまっても仕方がありません。

そうならないためにも、「運転資金」と「8 事業の見通し」の数値はしっかり整合性がとれていることを確認しておきましょう。

調達方法

資金の調達方法の欄は、調達先の内訳を記入します。項目としては「自己資金」「親、兄弟、知人、友人等からの借入」「日本政策金融公庫 国民生活事業からの借入」「他の金融機関等からの借入」の4項目あります。

自己資金

一番上に「自己資金」があることからも、公庫が自己資金の額を重要視していることが分かります。面談では、貯蓄の蓄積過程を通帳で確認されますよ。

創業を考え始めた頃から、コツコツを貯金をしていることが通帳から確認できれば、融資担当者から「努力している」「計画性がある」と良い評価を受けやすいです。一方で、第三者から融通して貰った資金だけでは、計画性が高いとは思われず、融資が不利になるでしょう。

自己資金が創業資金総額の3分の1以上あるのが理想

自己資金の金額は、日本政策金融公庫では「創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できること」 が条件ですが、これはあくまでも最低条件です。

多ければ多いほど、満額融資してもらえる可能性が高まります。私としては、創業資金総額の3分の1以上の自己資金を用意することをおすすめします。

資金を管理することは経営者として必要な能力です。まずは少額ずつでもいいので、毎月一定額を貯金にまわしていきましょう

親、兄弟、知人、友人等からの借入

調達方法の借入の欄には、毎月いくらを何回に分けて返していくつもりかも記載する必要があります。

例えば、父親から無利子で200万円借りて、毎月2万円ずつ返す約束になっている場合は「父:元金2万×100回(無利子)」と書いておきましょう。

日本政策金融公庫 国民生活事業からの借入

日本政策金融公庫からの借入の返済額については、公式サイトで返済シミュレーションができますので、その値を参考に記入すると良いでしょう。

他の金融機関等からの借入

「他の金融機関等からの借入」については、日本政策金融公庫から満額借りられない場合に記載する必要が出てくるかもしれませんが、特別な理由がなければ書かなくてOKです。

8事業の見通し

「8 事業の見通し(月平均)」では、売上高、売上原価、経費、利益の予想を、「創業当初」と「1年後又は軌道に乗った後」の2パターンで記入します。

また、どうしてその売上の計算になるのか。「平均単価〇〇円×席数×回転数×営業日数=〇〇〇万円」のように根拠となる計算式を書きましょう。

売上は低めに、経費は高めに設定を

美容室ビジネスの場合、最初は思ったように新規集客ができなくても、少しずつリピーターを増やしていくことができれば、売上も利益も上げていくことが可能です。創業当初の売上高はまずは低めに設定し、手堅い収支計画にしましょう。

逆に経費については、「開業してみたら思ったより経費が嵩んだ。」なんて声をよく耳にします。経営者になると、一スタイリストとして働いていた時には気づかなかったような、さまざまな諸経費が発生するものです。

今のあなたの勤務先で、何にいくらかかっているのかよく調べておくことをおすすめします。その上で計画書の経費は多めに見ておけば、開業後慌てずに済むでしょう。

創業計画書のテンプレートの入手方法は?

創業計画書のテンプレートは日本政策金融公庫のホームページからダウンロード可能です。エクセル版とPDF版の2種類があります。

創業計画書以外で、公庫の融資審査に必要なものは?

必要書類(個人)

  • 本人確認書類(運転免許証・パスポート)
  • 預金通帳(公共料金や住宅ローン、家賃、クレジットカードなどの引き落としに利用しているもの)
  • 見積書(設備資金の融資を申し込む場合)
  • 源泉徴収票又は確定申告書(直近2年分)
  • 借入申込書(郵送による申し込みの場合のみ。インターネット申し込みの場合は必要なし)
  • 各種ローンの支払い明細など

なお、法人が申込む場合は、履歴事項全部証明書(登記簿謄本)も必要です。

あるとプラスになる書類

美容室の図面

内外装見積り時に業者さんが出してくれる図面やイメージ画があり、それが創業計画書に書いてあるコンセプトや戦略と合致している場合、持っていくと良いでしょう。

競合調査の資料

「3 取扱商品・サービス」の項でも説明したとおり、事業を成功させるためには、競合になりうる近隣の美容室の調査は欠かせません。

きちんと調査をした上で、メニュー価格やコンセプト等を決めていることをアピールするためにも、この創業計画書とは別紙1枚に、競合店の立地状況やメニュー価格、打ち出し等をまとめた資料を添付すると良いでしょう。

日本政策金融公庫には事前に相談を

融資を申し込むのは、物件が決まり、諸々の見積もりが出てからでないといけませんが、実際にそのタイミングは、同時に様々な業者とのやりとりをしなければいけない時期で、かなりのハードスケジュールです。

そしてもし、予定額の半分しか融資がおりなければ、物件の契約も内外装業者への発注もできず、開業時期も全てペンディングになってしまいます。

実際、日本政策金融公庫の融資がおりる率は現在50〜60%ほどと言われており、半数近くの方が、他金融機関に融資審査依頼をしなおしたりしていらっしゃいます。

物件によっては返事を引き延ばすと他の借り手に取られてしまうこともあり、最悪せっかく良い物件が見つかったのに、流れてしまう可能性も…。

そのような事態に陥らないためにも、融資担当者との顔合わせもかねて、なるべく早い段階で事前に融資相談をしておくことをおすすめします。融資相談は、ネットからも申し込みが可能ですよ。

創業計画書もかける範囲で埋めたものを持っていけば、添削してくれたり、他にどのような書類があったら良いかなどもアドバイスをくれるでしょう。

創業融資の審査で落ちないコツまとめ

今回は、美容室を開業予定で、かつ資金調達が必要な方のために、創業計画書の書き方について詳しく解説しました。最後に創業融資の審査で落ちないコツを箇条書きでまとめておきますね。

当サイト「美容師さんのためのお役立ち知識」では、他にも美容室開業に関するさまざまな情報を発信していますので、よろしければ他のページも覗いていってくださいね。みなさんが、オーナーとして良いスタートを切れることを祈っています!

この記事を書いた人

中村英二

神奈川・東京に大型美容室Anphiを複数店舗展開する会社、株式会社イーグラント・コーポレーションの社長。「美容師ファースト」を掲げ、日々より良いサロン創りに奮闘中!

この記事を監修した税理士|2023年11月8日監修

坂根崇真(秋田税理士事務所)

3年連続創業融資サポート通過率100%!自身も日本政策金融公庫等から借入を行っており、創業融資に強い秋田税理士事務所の代表税理士。

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