美容室経営の勉強方法|開業前に学んでおくべき知識や本は?

更新日:2024/03/27
美容室社長中村英二

美容室を開業する場合に経営の勉強は必要なのでしょうか?結論から言いますと、1人独立の場合は必要ありませんが、2人以上、つまりご自身とスタッフが1人以上いる場合は必要です。

ここでは実際に大型美容室を複数店舗経営する私が、美容室経営にあたって学んでおくべきだと考える知識の項目や、おすすめの本、勉強方法について詳しく解説します。

美容師の技術力と経営の能力は別物。経営の勉強を!

どんなに美容師として優秀で技術力があり、お客様が沢山ついていたとしても、美容室経営が上手くいくとは限りません。

経営者になるのなら、マーケティングをして、事業計画を立て、資金を調達して、物件を借りてお店を造り、人を雇用しマネジメントをして、集客をして、お店に利益を残していかなければいけません。これは美容師としての技術力とは全く違う能力です。

ところが美容室経営者の多くが、美容師としての勉強ばかりで、経営の勉強をせずに開業する方が多いのが現状です。そうすると、開業した後も結局ご自身が現場に立って売り上げをガシガシ上げないとお店の利益が残らないということになってしまう事態に陥りがちです。

私も開業前に簿記の勉強はしたものの、財務のことはさっぱりで、支払う税金を減らすことに注力して、お金が会社に残らない努力ばかりしてしまっていました。お店が繁盛していて、新規出店を控えていればそれでも困りませんでしたが、多店舗展開するには下策だと気付いたのは、開業して何年もたってからでした…。

この記事を読んでくださっている皆さんには、事前にしっかり経営の勉強をして、様々なことを想定した事業設計のもと、お店を開業することをおすすめします。その為に必要な勉強項目をこれから一つずつご紹介しますね。

【勉強項目①】貸借対照表

美容室開業にあたり、多くの方は銀行から借り入れを起こすことになるでしょう。その借りたお金を帳簿にどのように振り分けて、その後帳簿上でどう積み上げていくのかを見ていきましょう。この時使用するのが貸借対照表です。

貸借対照表は、大きく左右2つに分かれ、右側がさらに上下2つに分かれています。左に「資産」、右側に「負債」と「純資産」が入っています。この左側の数値の合計値と右側の数値の合計値は、最終的に釣り合ってバランスが取れることから、貸借対照表は「バランスシート(BS)」とも呼ばれています

貸借対照表を見ると、どこから調達して、それがお店のどこに入っていて、どれくらい回収して純粋な資産になったのかが分かります。例を一つ見てみましょう。

開業する為に銀行から5年後返済で1,000万円借りると、右側の「負債」の「長期借入」に1,000万円が記入されます。それで300万円の美容機器を購入したら、左側の「資産」の「固定資産」に300万円が記入され、700万円の貯金が残るので左側の「資産」の「現金預金」に700万円と記入されます。

そうすると、左側の数値の合計値と右側の数値の合計値が1,000万円で釣り合いがとれていることが分かりますね。この場合は、まだお店OPEN前で儲けがないため、右下の「純資産」が0となっています。

財務の勉強におすすめの本

【勉強項目②】収支管理

毎月の店舗PL(損益計算書)を作成して、収支の状況を把握するのが収支管理です。PLとは英語の「Profit and Loss Statement」の略で、収益・費用・利益が記載されています。

PL

毎月のPL作成に加えて、年間の予測を立て、予測通りに経営できているのかどうか毎月確認していくことが大切になります。予算通りにいけばもちろんOKです。

低ければその理由を分析して、説明できる状態である必要があります。集客が弱くて客数が足りずに売上が上がらなかったのか、客数は予想通りだったが客単価が低かったのか、売上は予想通りだったが、材料費が嵩み利益が薄かったのか等、理由をしっかり把握して、次月以降に活かしましょう。

PLは全て保存して、必ず残しておくようにしましょう。そうすれば年月が経つほどに数字のストックが溜まって、データに法則性を見出せ、数字におかしな月があったら、どこの項目が変なのかが分かるようになります。

お店の収支とオーナーの使う経費は分けよう

収支管理でPLを作る際に気を付けていただきたいのは、お店の収支とオーナーの使う経費はきっちりと分けるということです。これをしないと、お店の経費とプライベートの経費がごちゃごちゃになってしまい、お店の営業や管理が悪いのか、ただオーナーがプライベートで使い過ぎただけなのかが不明瞭になってしまいます。

【勉強項目③】資金繰り

お金の流れを把握する為に資金繰り表を作成しましょう。大企業では「CS」あるいは「キャッシュフロー計算書」と言いますね。下の画像は実際に私が使用している資金繰り表の一部です。

美容室は現金商売なので、資金繰り表を作らなくてもなんとか自転車操業できてしまうため、必要ではないという人もいますが、お金の流れをきっちりと把握することは経営者として大事な仕事だと私は考えます。期首現預金残高、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフロー、期末現預金残高を毎月出し、年毎の予測を立てることが重要です。

営業キャッシュフロー

本業でのキャッシュの流れを指します。店舗ビジネスですと、営業利益+減価償却がほぼそれにあたります。

営業キャッシュフローとPLは何が違うの?両方必要なの?と考える方もいるかもしれませんが、結論差があり、両方必要です。 PLは全て発生ベースの数値を入れ込みます。その月に発生した売上、その月に発生した経費を入れます。その為、材料費を注文したら、たとえ支払いは翌月でも、PLには注文月に数値を入れることになります。

一方、営業キャッシュフローは支払いベースの数値を入れ込みます。つまり実際にお金をつかった月に数値を入れます。材料費を注文して、支払いが翌月になった場合、営業キャッシュフローには注文の翌月・実際に支払った月に数値を入れることになります。

発生ベースなら今月の営業でどのくらい儲かったのかが分かります。支払いベースならどのくらいお金が残ったのかが分かります。どちらもとても重要ですので、PLと営業キャッシュフローは両方把握するようにしましょう。

投資キャッシュフロー

投資のキャッシュの流れを指します。お店の内装や美容機器など資産計上する物の売り買いでの増減が分かります。例えば、内装費として700万円支払った場合、その月は投資キャッシュフローは-700万円ということになります。

財務キャッシュフロー

財務キャッシュフローは銀行の借入返済などを記入します。借入の返済で銀行に10万円支払ったら、その月の財務キャッシュフローは-10万円となります。

営業キャッシュフローがプラスになればOK

大事なのは、営業キャッシュフローがプラスになることです。投資キャッシュフローや財務キャッシュフローはマイナスでも全く問題ありません。よくあるやばい企業の状況は、営業キャッシュフローがマイナスで、投資キャッシュフローと財務キャッシュフローがプラスという状況です。これはつまり本業が儲かっておらず、店舗や資産を売却し、銀行からの借入を増加させているというお金の流れになります。

これから美容室経営を始める方は、営業キャッシュフローをプラスにすることを目指して頑張ってください。そして、月次のキャッシュフローから年次のキャッシュフローを予測する習慣をつけましょう。目標を定めて、それが達成できたかどうかをチェックする。予測と違った場合は原因を突き止め、次回の予算づくりの精度を高めていきましょう。

ここまででお話しした「BS(貸借対照表)」「PL(損益計算書)」「CS(資金繰り表)」を合わせて財務三表と言います。財務諸表の中でも最も重要と言われるものですので、美容室経営者になるのなら勉強しておいて損はありません。私の財務の勉強におすすめの本も紹介していますので、良かったら読んでみて下さいね。

エクセルやスプレッドシートは使いこなせる?

「BS(貸借対照表)」「PL(損益計算書)」「CS(資金繰り表)」をご自身で作成するなら、MicrosoftのエクセルGoogleのスプレッドシートで表を作成し、数式を入れてある程度自動計算をしてくれるようにするのがおすすめです。美容師さんはそもそもそういったソフトを使えない人が多いですよね。かくいう私も昔はさっぱりでした(笑)

数値管理をするなら、エクセルかスプレッドシートは必須ですので、簡単な表の作成や数式の入力は出来るようになっておきましょう。

【勉強項目④】税務

税務とは税金の管理。つまり所得に対してどういう税金がかかって、どのぐらい支払うのかを管理することです。これをしておかないと、翌年どれくらいの税金を支払わなければいけないのかが事前に分かりません。後で「こんなに税金を払うの!?」となり、現預金が思ったよりも残らないということが起こってしまいます。その為、事前の納税予測が必要なのです。

税理士に任せれば良いという方もいらっしゃいますが、基本スタート時はご自身で行うつもりで勉強しておくことをおすすめします。お店の大事なお金のことは、はじめのうちは全て把握しておくべきでしょう。

【例】よくある美容室の税務内訳

個人事業主の美容師オーナーさんがスタッフを2人雇用している美容室の場合、どのような税金が発生するのか見ていきましょう。

 
売上2500万円
利益720万円
税金所得税163,000円
消費税1,250,000円
住民税550,000円
個人事業税160,000円
【税金合計】個人2,123,000円
従業員の所得税200,000円
従業員の住民税400,000円
従業員合計600,000円
【税金合計】個人+従業員2,723,000円

年間の売上が2500万円の美容室で、月収35万円の美容師を二人雇用していて、諸経費を引いた利益が720万円の場合に発生する税金の例です。

オーナーが個人事業主なので、発生する税金は所得税、消費税、住民税、個人事業税となります。その4つを合わせた税金は2,123,000円です。

また、従業員の給与から差し引いたものを預かって、まとめて国へ所得税と住民税を支払う必要があります。それらを全て合計すると、この美容室オーナーが支払うことになる合計金額は2,723,000円となることが分かります。人によって扶養控除や医療控除等で上記の額は変わってきますが、大抵の場合、売上の約10%は税金として支払うことになると考えておいた方が良いでしょう。

上記には記載しませんでしたが、他にも償却資産税などが発生する場合もあります。予め税金を予測して経営すれば、後で困ることはありません。上手に工夫しながらも、お店にお金がしっかり残るようにしたいですね。

【勉強項目⑤】人事

笑顔の美容師2人

世の中の美容室オーナーさんは、「人事」を大事な仕事として捉えていない方が多いように思います。ですが、美容室の売上を上げるには美容師さんが必須ですので、ここを「仕事」として捉えて、自身の時間とお金を割くべきだと私は考えます。

でないと、はじめは一緒に仲間になってくれた美容師さんもいずれは辞めて、新しい人も集められずに、いつか独りぼっちになってしまうでしょう。

人事の仕事は主に、採用活動、人財育成、評価制度の作成、スタッフのメンタルケア、離職分析など。

美容室を開業して数店舗規模の内は人事専門の人を雇う余裕はないでしょうから、これらを全てオーナーが行う必要があるのです。では、それぞれどういった業務をやる必要があるのか見てみましょう。

美容室の採用活動

美容室の採用活動は主に新卒採用と中途採用で大きく方針が変わってきます。正社員美容室は新卒採用、業務委託サロンは中途採用の市場で活動している場合が多いです。ただ、これも時代と共に変わってきていて、最近では正社員サロンはだんだん新卒が取れにくくなっている為、中途採用にも力を入れていますし、逆に業務委託サロンでは中途採用に限界を感じて、新卒採用に乗り出してきています。

新卒採用は美容学校へのアプローチ、パンフレットとHPの作成、求人サイトへの登録

新卒採用で一番重点をおくべきなのは美容学校へのアプローチです。セオリーは、ご自身の出身学校やスタッフの出身学校に連絡を取り、学校訪問をすることです。就職担当の先生に会って、サロンの良さをアピールをしましょう。学校独自の求人票に記入することになります。

訪問の際、パンフレットは持っていきましょう。先生が学校の棚に置いてくれたり、学生に配ってくれる可能性があります。また、最近ではパンフレットを見たら、学生さんも親御さんもまずはネットで検索しますから、SNSやHPをしっかりと運用しておく必要があります。

美容学校へのアプローチが難しければ、最近では美容室と美容学校をつなぐことを仕事としてるコンサルタントもいますので、そういった会社に相談するのも手です。

また、求人サイトへの登録もしておけば問い合わせがくる可能性があります。大手の求人サイトでは、就職ガイダンスを開催していますので、そこに参加するのも良いでしょう。

中途採用は求人サイト、エージェント、ネット広告、紹介

美容室の中途採用はまず美容師専門の求人サイトへの登録をおすすめします。代表的なのは、リクエストQJとリジョブです。ホットペッパービューティーや美プロを使用しているサロンも多いですね。

サイト名料金体系最低料金最大料金成果報酬(一人)
リクエストQJ掲載料¥90,000¥480,000
リジョブ掲載料+成果報酬¥18,000¥33,000¥210,000
ホットペッパービューティー掲載料¥20,000¥30,000

リクエストQJは掲載料金のみがかかるタイプで、プランによって掲載料金が大きく異なります。店舗数に応じて料金が変わらない為、複数店舗向けです。リジョブは掲載料と成果報酬を支払うシステムです。掲載料金はリクエストQJと比べて安いですが、美容師を採用すると一人につき20万円以上の成果報酬を支払います。採用しない限りは低料金ですので個人店におすすめです。

ホットペッパービューティーは美容室求人業界に後から参入してきたためか、今のところ掲載料金は格安です。

最近では成果報酬のエージェントが増えてきていて、そちらもおすすめです。アシスタント1人あたり30万円、スタイリスト1人あたり50万円が相場となっております。1店舗経営のオーナーさんにとっては高額に感じるかもしれませんが、採用した後にその美容師が生み出してくれる売上を考えれば、そこまで高額ではないでしょう。例えばスタイリストを採用し、その後毎月70万円売り上げてくれて、28万円がお店の利益になるとすれば、約2カ月で採用費用50万円を回収できる計算となりますよね。

ネット広告は、自社でリスティング広告やSNS広告に出す方法です。費用はミニマム数百円から可能です。リスティング広告は検索ワードに対して広告を出す方法で、SNS広告は性別や年齢、地域、趣味などのカテゴリーを指定して、AIが合うユーザーを学習して広告を出す方法です。もちろん、広告費をかけずとも、SNS運用を頑張れば、求職者からアプローチしてくれる可能性はあります。

私が経営する美容室Anphiで一番実績が多いのが、スタッフからの「紹介」です。紹介の良いところは、紹介で入社してきた人は変な辞め方をする人が少ない点です。紹介者と紹介されて入社した方にそれぞれ10万円を報酬としてお渡ししています。

人財育成

アシスタント採用を行う場合は、カリキュラムの構築をしっかりとしておく必要があります。 スタイリスト採用を行う場合は、個人売上を伸ばす為の施策を考え実行することをおすすめします。社内勉強会や外部講師を招いての講習会の実施、外部セミナーに参加した場合に費用を会社が負担してあげるなど、「もっと学びたい!上手くなりたい!」という美容師さんの欲求を満たしてあげるのも人事の仕事です。

また、売上が上がらないスタッフに無理に勉強を強制するのではなく、スタッフ自ら「やりたい」と思わせるようなモチベーション管理も必要になってきます。親に「勉強しろ」と言われるほど勉強が嫌いになる子供と一緒で、「お前は売上が低いからもっと勉強しろ」と言われても、ちっとも勉強に身が入らず、むしろ嫌になって辞めてしまう可能性があります。そのスタッフに向き合い「勉強したい」という気持ちになるように仕向けるのが仕事だと考えましょう。

複数店舗展開を考えている方は、店長など、お店の管理者の育成も必要になってきます。初めはオーナー自身が行っている店舗管理業務を、徐々にスタッフに任せていかないと店舗展開ができません。レジ締や、商材発注などの雑務はもちろん、スタッフの心のケアなども行ってくれる適任者を見つけ、育てていきましょう。

離職分析

あなたのサロンを辞めていく美容師さん達の離職理由の分析を行うことも、美容室経営においてとても重要な仕事です。どんなに採用活動を頑張って行い、定期的に採用できていたとしても、入社してから次々と辞めてしまう様では採用費ばかりが嵩んでまったく意味がありません。耳が痛い話が多くなるとは思いますが、経営者として離職理由に真摯に向き合うことをおすすめします。

また理由を聞いたら、必ず文章で残しておきましょう。私はエクセルで年度ごとの離職率や離職理由をまとめて把握しています。離職理由を把握して、その点を改善すれば離職率は下がるはずです。給与なのか、人間関係なのか、引っ越しなのか、教育制度のカリキュラムなのか、サロンの方向性なのか…様々な理由があると思いますが、しっかりと耳を傾けましょう。

誰でも初めから辞めるつもりで入社している人はいないはずです。何かしらギャップがあったり、居心地が悪くて辞めてしまう訳です。

根性論で辞めるのを引き留めるのではなく、理由を受け止めて送り出してあげて、それを次に活かした方が、その後のお店の発展につながるのではないでしょうか。

【勉強項目⑥】労務

労務の仕事には、給与計算や社会保険の手続き、就業規則等社内規定の作成、福利厚生の管理など、働いてくれる美容師さんが働きやすい環境をつくる為の様々な業務が含まれます。この辺りは、社労士さんにお願いするというのも手ですが、やはり初めの内は自力でやるのが一般的です。

社会保険

社会保険は全部で4種類あります。正社員従業員がいる場合「雇用保険」「労災保険」が必須です。「健康保険」と「厚生年金」は、オーナーさんが個人事業主で、スタッフが4人までなら入る義務はありませんが、5人以上のサロンはマストです。社会保険4つの合計の会社負担は、給与の約15%となります。

雇用保険と労災保険だけだと会社負担額が少ないため、それだけにしているサロンが多いですが、多店舗経営を目指すのならば、より多くの美容師に選ばれる為にも健康保険と厚生年金に入り「社会保険完備」にする必要があるでしょう。

就業規則

スタッフの勤務時間や休暇にも向き合う必要があります。ご自身が若い頃は「朝から練習して、営業時間中は掃除やアシスタント業務、営業後にはまた練習で、練習時間は給与が出ないというのが当たり前。」という方も多いとは思いますが、時代の変遷と共に考え方は変わっています。

現在では営業時間中に練習をさせる美容室も増えてきました。休暇も正社員なら週休2日以上が普通になってきています。時代にあわせた就業規則にしていかないと、人は集まりません。多店舗経営を目指すなら、労基に従った勤務時間・休暇の設定を行い、それでもお店に利益が残る仕組みを整えましょう。

福利厚生

よくある美容室の福利厚生は、所属店での自身のカラー・トリートメント無料、ウィッグ代支給、寮完備や住宅手当などがあります。面白い取り組みとしては、スタッフの白ご飯とみそ汁を毎日作って無料で提供してくれるサロンもあります。

当社では、福利厚生として30万円の引っ越し手当や、年1回の健康診断を行っています。働く方の満足度を上げる為や、求人で目立たせるために、面白い福利厚生を考えてみるのもいいかもしれませんね。

【勉強項目⑦】組織の構築

3人ぐらいのお店でも、材料係、レジ締め係、入金両替係、SNS係などが必要で、これも立派な組織と言えるでしょう。さらに人が増えてきたら、店長や副店長など、「係」から「役職」へと変化していきます。店長や副店長にどういった業務をしてもらうのかを決め、それに見合った給与を設定する必要があり、これがオーナーの仕事です。本人の適正やスタッフ間のパワーバランスも含めた判断が必要になります。

どの役職にどういった業務を任せるべきなのか、権限をどの程度与えるかなど迷ったら、他のお店の内情を聞いてみると良いでしょう。

私が経営する美容室Anphiでは、材料係にもお手当を出しています。スタッフのモチベーションをあげ、しっかりやってもらうためにも手当はあった方が良いと思うからです。お店によっては、原価率に応じて手当を変動制にしているところもありますね。

ミーティングの実施や報連相の流れも仕組化を

ミーティング実施の有無や、報連相の流れも組織構築を左右する重要なポイント。サロンの方針や、スタッフの関係性を踏まえ、最適なミーティング方法や回数、報連相の流れを導き出したいですね。

これがあいまいだったり組織に合っていないと、人間関係に歪みが生まれて、スタッフをはじめお客様の満足度にも悪影響が出てしまいます。そうなる前に、しっかりと仕組化しておきましょう。

【勉強項目⑧】マーケティング・ブランディング

美容室を造り始める前に、しっかりとしておきたいのがマーケティングとブランディングです。マーケティングするにも軸がないとマーケティングのしようがないので、まずざっくりで良いので軸を決めましょう。それはやりたい地域なのか、得意とする技術なのか、お店の規模やコンセプトなのか、ご自身が「なぜ美容室を出店したいのか?」を考えれば自然と軸は決まってくるはずです。

例えば、「私の出身地である神奈川の金沢文庫でお店を出したい」という美容師さんがいたとします。そうしたら、マーケティングで町の規模や男女・年代別の常住人口、昼間人口、競合店の数、競合店のコンセプトや価格設定を調べます。その上で、この地域なら、このくらいの価格設定で、〇十代の女性をターゲットにスタッフ何人規模のお店なら経営が成り立ちそうだ。と仮定し、それにあうブランディングをすれば良いわけです。

もしくは「僕はカラーが得意だからカッコイイカラー特化サロンを出店したい!」という気持ちがある人なら、そういう尖ったコンセプトを好むターゲット層をマーケティングで定め、その人達が集まる街を探し、その街の他の競合に勝てるブランディングを考える必要があります。

マーケティングには調査会社やネットリサーチツールなどを上手に活用したり、ご自身の足を使って調査したりと様々な方法があります。ただ調べるだけでなく、調べたデータから答えを導き出す能力も必要になってきます。ブランディングで決めたコンセプトは、お店のロゴ、内装、ネット広告やSNS、ショップカードや名刺などすべてのものに反映させていく必要があります。また、スタイリストの接客態度や言葉遣いもブランディングの一つです。

マーケティングやブランディングはとても奥が深いです。お店の行く末を左右する大切なことですので、しっかり時間をかけて取り組むことをおすすめします。

美容室開業前に読んでおくべきおすすめ本

これまでお話してきた、これから美容室を開業しようとしている方が勉強した方が良い項目について、おすすめの本を紹介します。

収支管理・資金繰り・貸借対照表の勉強におすすめの本

財務諸表は三角でわかる

PL、資金繰り表、貸借対照表の見方が分かる本。難しい言葉が使われていないし、イラストも多いので、財務を知らない入門者におすすめです。

【新版】財務3表一体理解法

企業の戦略を財務面から明らかにする手法が学べる良書です。財務三表が連動していることがイラストで紹介されているため、理解し易いです。「財務諸表は三角でわかる」の後に読むと、さらに財務についての知識が深まり、おすすめです。

決算書の読み方 最強の教科書|決算情報からファクトを掴む技術

実物の決算書を自力で読み解くためのチカラが身につく本です。実際に上場している企業の有価証券報告書、決算説明資料、統合報告書等から、その数字の裏に隠されたストーリーを読み解いていく過程がとても面白いです。上二つの本を読んだ上で、さらに様々な企業の財務状況を勉強したい方におすすめです。

税務や労務の勉強におすすめの本

個人事業主の事務処理がぜんぶ自分でできる本

個人事業主の経理・労務に関することが、分かりやすく書かれています。ご自身の開業・青色申告の手続きはもちろん、スタッフを雇う際の事務処理や労働保険、年末調整の話まで。美容室をまずは個人事業主として開業を考えている方に読んでもらいたい一冊です。

人事・組織の構築におすすめの本

【新版】地道力

美容室EARTHグループ代表である國分社長の本。経営を安定させる為には、人が少し辞めても困らない大人数の大型サロンにするべきだという話や、優秀な美容師さんに辞められない為の施策として、独立支援型のフランチャイズ展開をしていった話などに感銘を受けました。現在の私の美容室経営にも大いに活かしています。

Lond流非合理的経営

美容室業界の常識を疑った逆転の発想で、働く美容師さんの待遇を見直したり、離職にスポットをあてた取り組みを行っているという話が勉強になりました。6人経営はなかなか真似はできないと思いますが、売れているお店なだけあり、勉強になる点が多々ありました。

たった4年で100店舗の美容室を作った僕の考え方

髪質改善に特化したサロンを経営し、4年で100店舗を達成させた北原社長の本。集客はポータルサイトを利用せず自社HPやリスティング広告、SNSで行っているそうです。立ちいかない個人美容室に着目してV字回復をさせたり、スタッフ同士の摩擦を回避させるために初めから仲良くさせない、店長もおかないという、斬新な経営方法をされていて、とても勉強になりました。

ブランディングの勉強におすすめの本

経営とデザインのかけ算|企業を進化させる「デザイン思考」と「ブランディング」

モノやサービスが溢れ、高い技術だけでは売れない時代にある今、企業価値を高めるためのブランディングの重要さや、デザイン思考のやり方などを解説しています。経済産業省と特許庁が2018年5月23日に公表した「『デザイン経営』宣言」をご存じでしょうか?その今注目されている「デザイン思考」を経営に応用することで、3年でV字回復を遂げた社長が書いた良書です。

マーケティングの勉強におすすめの本

USJを劇的に変えた、たった1つの考え方|成功を引き寄せるマーケティング入門

経営危機にあったUSJを劇的に経営再建したマーケティング本部長が著者。マーケティングがなぜ重要なのか、本場アメリカと日本のマーケティングに対する考え方の違いや、具体的なマーケティング的思考方法が紹介されています。マーケティングとはどんなこと?という基本的なことを知りたい人でも読みやすくおすすめです。

セミナー・勉強会に参加する

セミナーや勉強会にも積極的に足を運んでみることをおすすめします。

美容室に機器や商材を卸しているメーカーや、美容室コンサル、独立支援制度を行っている美容室などが無料で行っているセミナーは、営業目的ではあるものの、参考になる話も結構あります。

今流行りの美容室や大手美容室もたまにセミナーを行っていたりするので、常にアンテナを張って情報をチェックして下さい。

サロン開業支援|タカラベルモント

理美容機器・商材の総合メーカーであるタカラベルモント(株)が運営するサイト「サロン開業支援」では、これから美容室や理容室で独立を目指す方に向けた新規独立開業セミナーを全国各地で開催中。出店計画、資金計画、サロン会計など、様々なセミナーが¥2,000ほどで受講可能です。

ビューティガレージアカデミー

理美容・エステ・ネイルのプロ向け美容商材の卸販売を行っているビューティーガレージが提供する、開業・経営ノウハウを学ぶスクール「BGアカデミー」では、技術講習や独立開業セミナーなど随時様々なセミナーを実施中。

ホットペッパービューティーアカデミー

ホットペッパービューティーが、美容サロンにむけた独自の情報・学びの機会を全て無料で提供しています。話題のサロンオーナーのインタビューや独自のマーケティング調査の結果など、文章や動画で気軽に学ぶことが可能です。

起業の学校WILLFU

起業の学校WILLFUは、日本最大級の独立・開業・起業支援メディア、アントレグループが運営している社会人向けの学校で、経営スキル学習と実際の事業立ち上げを通じて、3ヶ月で稼ぐ力を鍛えるプログラムを提供しています。

サイバーエージェント、孫泰蔵氏、LIFULL、クックパッドなどのサポートを受けて、プログラムを開発しており、現在までに受講生3,000人を突破しています。90分の無料体験授業&説明会では、起業の踏み出し方、必要なものが全てわかる内容になっているそうです。

「経営についての勉強をしっかりしたい。」という方や、「普通の美容室ではない新しいビジネス形態で開業したい。」「美容師以外の起業家の友人知人を増やしたい。」という方におすすめです。

流行りの美容室に髪を切りに行く

流行っている美容室に、お客様として髪を切りに行くというのも大事な勉強方法です。ネット予約や電話予約など、予約の導線から勉強になります。クーポンの打ち出しが上手かったり、掲載写真がおしゃれだったり、流行っているだけのことはあります。

そして実際に行ってみたら、お店の内装や、接客技術を見て「どうして流行っているのか?」を分析しましょうまた、担当してくれた美容師さんに客数や客層、どんなメニューをやっていくお客様が多いのかなど、積極的に質問することをおすすめします。流行りのお店の美容師さんは、結構こういった質問を聞かれ慣れているので、嫌な顔せずに答えてくれますよ。

売れていない美容室の分析をするのも重要

人が持っている「優位に立って安心したい」という心理から、売れていないお店を見ると「あのお店ヤバいよね~w」と言って蔑んで終わるオーナーさんがいらっしゃいます。その思考で止まってしまうのは実に「勿体ない」と私は感じます。

売れていないお店が「どうして売れていないのか?」を分析することも重要だと考えます。流行っている店と、そうではない店の何が違うのかを客観的に分析する能力がつけば、ご自身のお店の経営に活きてくるでしょう。

駆け出し美容師のころは「積極的に競合店に行って技術を盗んでいた」という方が多いですが、経営者になると意外と他のお店に勉強に髪を切りに行くという行為をしなくなる方が多い印象です。私は、何店舗になってもこの勉強方法は大事だと思っているので、現在も毎月色々なサロンに行ってズケズケと質問しています(笑)

美容室経営者に話を聞きに行く

実際に美容室を経営している人に話を聞きに行くのはとても勉強になります。先輩や同僚、友人にいれば、早速アポイントを取り付けましょう。身近な友人知人にはいなくても、諦めずに友達の先輩や、知り合いの知り合いでも、誰かいないか探してみて下さい。

自分より一歩先を進んでいる人が特に勉強になる

一番勉強になるのは、自分より一歩先を進んでいる人です。あなたがこれからお店をオープンするなら、既に1店舗美容室を経営して軌道にのせている人。あなたが1店舗既に経営しているなら、3店舗ほど経営している人。あなたが3店舗経営しているなら、10店舗経営している人。など、ご自身のステージに合わせて一歩進んでいる方に話を聞くと、悩みの解決策や、これから出てくるであろう未来の課題点などが見えてきます。

ご自身と同じステージの人とは、もちろん話が合うでしょう。ただ、同じような悩みを抱えていることが多いために、結局愚痴をこぼして傷を舐めあうような時間になりがちです。ストレス発散の為にたまには良いとは思いますが、未来を見据えて行動していくなら、断然ご自身より進んでいる方との時間を優先することをおすすめします。

であれば、「自身よりずっと先へ進んでいる経営者の話を聞いたらもっと良いのではないか。」と考える方もいらっしゃるでしょう。1店舗の時に既に50店舗の経営者の話を聞くのは、すごく刺激を受け、「自分もいつかその領域に行きたい!」とモチベーションが上がるといった面では良いと思います。

ただ、規模がかけ離れているので、その経営者のやり方をすぐ真似しても、ご自身のお店が上手くいくとは限りません。お店の課題や悩みは規模によって常に変わってきます。1店舗オーナーには1店舗オーナーの悩みが、3店舗オーナーには3店舗オーナーの悩みが、100店舗オーナーには100店舗オーナーの悩みがあるものです。その為、私は自分より一歩先を進んでいる経営者との話が一番勉強になるなと感じます。

とはいえ、えり好みせずまずは色々な経営者の方の話を聞いてみましょう。自分のサロン経営にとってプラスの話を聞き出せるかはあなたのインタビュー力次第でもあります。ぜひ勉強させてもらって、今後のお店造りに活かしてくださいね。

まとめ

美容室経営に必要な勉強について掘り下げて記事にしてみましたが、いかがでしたでしょうか?正直、個人で一人サロン経営をする方にとっては必要のないことが多いですが、逆にスタッフ数が多いサロンを経営したい、お店をどんどん増やしていきたいという方にとっては、どれも必要なことだと思いますので、参考にしていただければ幸いです。

この記事を書いた人

中村英二

神奈川・東京に大型美容室Anphiを複数店舗展開する会社、株式会社イーグラント・コーポレーションの社長。「美容師ファースト」を掲げ、日々より良いサロン創りに奮闘中!

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