そのSNS、法律違反かも!? 美容師さんこそ知っておくべき薬機法
現在多くの美容師さんが、ご自身の創ったヘアスタイルや、おすすめのヘアスタイリング剤、ヘアケア商品などをSNSで紹介していますよね。ただ、実は法律違反をしてしまっている投稿が数多く存在します…。
その法律とは、正式名用「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」いわゆる「薬機法(旧:薬事法)」です。万が一、薬機法に違反していることが発覚すると、会社ではなく個人に対しても罰金刑や懲役刑が科される恐れがあります。
せっかくSNSを一生懸命頑張って、有名なインフルエンサーになったのに、罰金刑なんて絶対嫌ですよね?このぺ―ジでは、SNS発信を頑張っている美容師さんたちにこそ知っておいてほしい薬機法についてのポイントを分かり易くお話します。
問題!薬機法違反のSNS投稿はどれ?
さて、ここでまず初めに問題を出したいと思います。あなたは、ご自身の勤めるお店で販売しているシャンプー(化粧品分類)をインスタグラムのストーリーズで写真付きで発信することにしました。
以下の投稿5種類の内、薬機法違反に該当する可能性の高いものはどれだと思いますか?
例①
アミノ酸系のお肌に優しいシャンプーを入荷しました!敏感肌の方でも安心・安全に使えておすすめです!ご予約はこちら(リンク)
例②
髪がうるおってつやつやになるシャンプー入荷しました!気になる方はこちら(リンク)
例③
明日から育毛効果抜群のシャンプーの発売を開始します!僕も愛用中!ご予約はこちら(リンク)
例④
本当に髪と肌に良いシャンプーを開発しました!美容師の私から言わせると、はっきり言って市販のシャンプーはどれも配合成分がヤバいです💦気になる方はこちらから(リンク)
例⑤
髪質を改善したいなら絶対コレ!お店でも取り扱ってます♡(リンク)
それでは早速正解をお伝えします。薬機法に違反しているリスクが高いものは①③④⑤です!
どうでしょう?あなた自身が同じような投稿をした経験や、他の美容師さんの投稿で同じような内容を見た経験はありませんか?そう。知らない内に薬機法違反をしている美容師さんや美容室オーナーの方は多いのです…。
では、これらの投稿のどこが違反箇所なのかを、薬機法について詳しく解説しながら紐解いていきましょう。
薬機法とは?
そもそも「薬機法」とはどんな法律なのでしょうか。薬機法の正式名は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」で、「薬機法」の他に「医薬品医療機器等法」などと略して呼ばれます。
正式名の通り、この法律は医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品の品質と有効性及び安全性を確保するために、製造、表示、販売、流通、広告などについて細かく定めたものです。
美容室で取り扱う商材のほとんどは化粧品か医薬部外品ですので、それを販売する立場の美容師さんにとってはとても関係の深い法律なのです。
法律本文をご覧いただくと分かるとおり薬機法の全文はとても長いですが、SNS発信をしている美容師さんにとって重要なのは「第十章 医薬品等の広告(誇大広告等)」の項目でしょう。ここで本文を一部抜粋して引用します。
第十章 医薬品等の広告(誇大広告等)
第六十六条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
※引用元:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律このように明記されており、化粧品、医薬部外品を、製造方法、効能、効果などに関して虚偽又は誇大な記事を広告してはならないというわけです。
そして、薬機法に違反するかどうかを判断するには、厚生労働省の公表している「医薬品等適正広告基準」という基準が参考になります。
「医薬品等適正広告基準」では、「広告」について、次のとおり定義されています。
医薬品等適正広告基準 第2(対象となる広告)
この基準は、新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、ウェブサイト及びソーシャル・ネットワーキング・サービス等のすべての媒体における広告を対象とする。
※引用元:医薬品等適正広告基準の改正について|厚生労働省医薬・生活衛生局長つまり、テレビCMや電車の中刷り広告、ホームページはもちろん、美容師さんの個人のSNSも内容によっては「広告」に該当する可能性があるのです。
ご自身のSNS発信内容が「広告」に該当するかは、以下の3つの要件を満たしているかが鍵となります。
薬事法における医薬品等の広告の該当性について
- 誘引性:顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昴進させる)意図が明確であること
- 特定性:特定の商品名が明らかにされていること
- 認知性:一般人が認知できる状態であること
ここで、先の5つの例を振り返ってみましょう。先の5種類はいずれも、 SNS(=一般人が認知できる状態である)にて、 自分が勤めるサロンのシャンプーを紹介し(=特定の商品名が明らかにされている)、 おすすめしている(=顧客を誘引する意図が明確である)ことから、 「広告」に該当する可能性が非常に高いです。
ですので、「薬機法」を順守する必要があり、「製造方法、効能、効果又は性能に関して、虚偽又は誇大な」表現をしてはいけません。
「私は嘘は書いてないし、特に誇大な表現もしてないから大丈夫だ!」と思いませんでしたか?
実はここが薬機法の難しいところで、化粧品や医薬部外品の広告において言って良い表現には制限が設けられており、たとえ本当のことを言っていたとしても法律違反になってしまう可能性があるのです。
化粧品で標ぼう可能な効能効果とは?
厚生労働省の公表している「医薬品等適正広告基準」では、化粧品で使って良い効能効果の範囲は明確に決まっています。
化粧品の効能効果の範囲
- 頭皮、毛髪を清浄にする。
- 香りにより毛髪、頭皮の不快臭を抑える。
- 頭皮、毛髪をすこやかに保つ。
- 毛髪にはり、こしを与える。
- 頭皮、毛髪にうるおいを与える。
- 頭皮、毛髪のうるおいを保つ。
- 毛髪をしなやかにする。
- クシどおりをよくする。
- 毛髪のつやを保つ。
- 毛髪につやを与える。
- フケ、カユミがとれる。
- フケ、カユミを抑える。
- 毛髪の水分、油分を補い保つ。
- 裂毛、切毛、枝毛を防ぐ。
- 髪型を整え、保持する。
- 毛髪の帯電を防止する。
上記を見ると分かる通り、「頭皮、毛髪にうるおいを与える。」「毛髪につやを与える。」は化粧品の効能効果として標ぼう可能です。
その為、先の例の②「髪がうるおってつやつやになるシャンプー入荷しました!気になる方はこちらから(リンク)」は、薬機法違反ではないと考えられます。
一方で「③僕も愛用中!明日から育毛効果抜群のシャンプーの発売を開始します!ご予約はこちらから(リンク)」は「育毛効果抜群」と化粧品で標ぼうを許可されていない表現が含まれているため、薬機法違反と判断される可能性があります。
なお、医薬部外品の育毛剤の広告においては「育毛」という表現は可能ですよ。
効能効果・安全性を保証する表現は使ってはいけない
薬機法では、化粧品や医薬部外品において「安全性」を保証するような表現は禁止されています。
第4(基準)3(5)効能効果等又は安全性を保証する表現の禁止
医薬品等の効能効果等又は安全性について、具体的効能効果等又は安全性を摘示して、それが確実である保証をするような表現をしてはならない。
※引用元:医薬品等適正広告基準「パッチテスト済みなのでどなたでも安心・安全にご使用いただけます」や「赤ちゃんでも安心してお使いいただけます」なんていう表現はNGです。
そもそも人の身体は複雑で、アレルギーも人それぞれですよね。それなのに万人にとって安心・安全と言い切るのは傲慢というものでしょう。
このことから先の例の①「アミノ酸系のお肌に優しいシャンプーを入荷しました!敏感肌の方でも安心・安全に使えておすすめです!ご予約はこちらから(リンク)」はNGということがお分かりいただけると思います。
他社製品の誹謗中傷をしてはいけない
自分のサロンで取り扱っている商品の効果を際立たせるために、他社の製品を誹謗するような広告をすることは制限されています。
「他サロンで取り扱っている〇〇トリートメントははっきり言って古い方式です。うちのサロンの最新方式の♡♡トリートメントを一度試してみて!」とったように、他社の製品の内容について事実を表現して自社が優位であるかのように表現することはNG。
最新だと言いたい場合は、自社製品の旧製品と比べることにとどめましょう。また、製品内容の比較を行う場合も、自社製品の範囲にとどめ、他社製品との比較は行ってはいけませんので覚えておいてください。
このことから、先の例の④「本当に髪と肌に良いシャンプー開発しました!美容師の私から言わせると、はっきり言って市販のシャンプーはどれも配合成分がヤバいです💦気になる方はこちらから(リンク)」は、「他社の製品の誹謗広告の制限」に抵触し、薬機法違反となる可能性がある ことが分かります。
他社製品の誹謗中傷は、薬機法違反とならない場合であっても、誹謗中傷を受けた会社から損害賠償請求を受けるリスクもありますよ。
最大級表現の禁止
化粧品や医薬部外品の広告において、効果や安全性について「絶対」「最高の」といった最大級表現は禁止されています。
(6)効能効果等又は安全性についての最大級の表現又はこれに類する表現の禁止
医薬品等の効能効果等又は安全性について、最大級の表現又はこれに類する表現をしてはならない。
例えば、「最高の効果」「100%除菌!」「絶対安全」といった表現は避けましょう。
このことから先の例題の⑤「髪質を改善したいなら絶対コレ!お店でも取り扱ってます♡(リンク)」はNGです。
また、同じ考え方で、No.1表現にも注意が必要です。例えば「効き目No.1」「安全性No.1」などの表示は最大級表現に該当するため禁止されています。
ただし「売上No.1」「お客様満足度100%!」などのように、消費者に効能効果や安全性に対する誤認を与えない表現であり、かつもちろんそれが事実であれば可能です。その場合は、調査元や調査期間を含めた出典を明記するようにして下さい。
美容師の推薦はNG!?
薬機法において、美容師は化粧品等をおすすめしてはいけないといったネット記事をしばしば見かけることがあります。
美容師は国家資格取得者でもあることから「医薬関係者等」に含まれ、「医薬関係者等の推せんの制限の原則」に該当し、化粧品等を推薦してはいけないというのがその内容です。
医薬品等適正広告基準を見てみると、以下のような記載があります。
医薬品等適正広告基準 第4の10
医薬関係者等の推せんの制限の原則
医薬関係者、理容師、美容師、病院、診療所、薬局その他化粧品等の効能効果に関し、世人の認識に相当の影響を与える公務所、学校又は学会を含む団体が指定し、公認し、推せんし、指導し、又は選用している等の広告を行ってはならない。ただし、公衆衛生の維持増進のため公務所又はこれに準ずるものが指定等をしている事実を広告することが必要な場合等特別の場合はこの限りでない。
医薬関係者等の推せんについて
医薬関係者等による化粧品等の推せん広告は、一般消費者の化粧品等に係る認識に与える影響が大きいことから、例え、事実であったとしても不適当とする趣旨である。「公認」には、法による承認及び許可等も含まれる。なお、本項は美容師等が店頭販売において化粧品等の使用方法の実演を行う場合等を禁止する趣旨ではない。
※引用元:医薬品等適正広告基準たしかに、文中程の「医薬関係者等による化粧品等の推せん広告は、一般消費者の化粧品等に係る認識に与える影響が大きいことから、例え、事実であったとしても不適当とする趣旨である。」の一文のみを見ると、医薬関係者つまり医師や理容師、美容師、薬剤師などの人が化粧品の推薦を広告で一切してはいけないように見えます。
しかし、薬機法が禁止しているのは効能効果に関する虚偽・誇大広告です。医薬品等適正広告基準についても、「医薬関係者等の推せんの制限の原則」の文頭をよく読んでみると「医薬関係者、理容師、美容師、病院、診療所、薬局その他化粧品等の効能効果に関し、世人の認識に相当の影響を与える公務所、学校又は学会を含む団体が指定し、公認し、推せんし、指導し、又は選用している等の広告を行ってはならない。」とあり、化粧品等の効能効果に関して影響を与える点に着目しています。
つまりあくまでも化粧品等の効能効果に関してであり、美容師(医療関係者)であるということのみをもって、一切おすすめをしてはいけないという趣旨ではないのです。
そのため、取り扱い商品(化粧品・医薬部外品など)の効能効果の保証ではなく、単純にシャンプーの香りや泡立ちのよさを伝えておすすめしたり、スタイリング剤の伸びのよさを伝えておすすめしたりする分には何ら問題はありません。
薬機法に違反すると、結局どうなる?
薬機法に違反し、それが発覚してしまった場合どのようになるのでしょうか。
2年以下の懲役、もしくは200万円以下の罰金となる場合も
虚偽広告や誇大広告等を行いそれが発覚した場合、行政指導や措置命令を受ける可能性があります。
措置命令に従わない場合など悪質な場合は逮捕される可能性もありとなり、刑事罰として2年以下の懲役、もしくは200万円以下の罰金が科されます。ただし、虚偽・誇大広告をすること自体も刑罰の対象されているため、時に行政指導や措置命令を飛ばして一発処分なんてこともあり得ます。
2021年8月から課徴金制度が施行
2021年8月に改正薬機法が施行され、「課徴金制度」が導入されました。一定の場合には、 違反を行っていた期間中(最大3年間)における対象商品の売上額の4.5%の納付が求められます。
薬機法違反が発覚するのは、消費者や競合他社からの通報による場合が多いです。その為有名な方や会社ほどリスクが高いと考えがちですが、2021年3月にはアフィリエイターの個人事業主が大阪府警に薬機法違反の疑いで書類送検された事例もあります。
「自分は大丈夫」と思わずに、ぜひ自身の投稿を見直してみてくださいね。
今回は、美容師さんに非常に深く関わりがあるのにあまり知られていない「薬機法」について、表現事例を交えながらお話ししましたが、あなたのSNSでの表現は大丈夫でしたか?
SNSは正しく活用して、ぜひ楽しい美容師ライフを送ってください!