AGA(男性型脱毛症)とは?原因や最新の治療薬や治療方法は?
最近電車の広告でよく見かける「AGA」とは「男性型脱毛症」のことです。その原因や症状、ご自身の進行度合いが分かる男性型脱毛症の進行パターン、現在行われている治療方法などを毛髪診断士兼スキンケアマイスターが徹底解説致します!
この記事を書いた専門家
公益社団法人日本毛髪科学協会の毛髪診断士®認定講師兼、日本化粧品検定1級取得のコスメコンシェルジュ、日本コスメティック協会のスキンケアマイスターの資格を有する美髪・美肌研究家。日々、頭皮や毛髪、お肌について研究し、正しい情報を広める活動を行っている。
AGAとは?症状と特徴
AGA(エージーエー)とは、Androgenetic(男性ホルモンの) Alopecia(脱毛症)の略で、男性ホルモンが関与していることから欧米でこう呼ばれています。
日本では正式な病名は「壮年性脱毛症」ですが、一般には「男性型脱毛症」という言い方が広まっています。早い人では17歳から発症することから「若ハゲ」とも言われます。
AGA(男性型脱毛症)は、成長期の毛包(毛根を包む組織)が十分に大きく育たないうちに退行期となり、その後は成長期の期間が短縮化されていき、休止期にとどまる毛包が増えていく症状です。男性型脱毛症の髪を観察すると、前頭部や頭頂部を中心に細くて短い毛が多いのが特徴で、太さは0.06mm以下の産毛です。進行すると最終的には頭髪が皮表に現れなくなります。
日本人男性の発症頻度は、20代で約10%、30代で20%、40代で30%、50代以降で40数%と年齢とともに高くなると報告されています。総じて、日本人成人男性の約3人に一人が男性型脱毛症になっているのです。
AGAは進行性の脱毛症
AGAは進行性の脱毛症です。そのため、何もせずに放っておくと、髪の毛の数は減り続け、徐々に薄くなっていきます。
進行スピードには個人差があるので、どの程度の期間で薄毛になるかは人それぞれであり、一概にはいえません。ただし、患者の毛髪の密度が5年間で平均26.3%減少したというデータがあります。
Kaufman K D et al:Eur J Dermatol, 12(1), 38-49, 2002より作図前頭部や頭頂部に現れるAGAの症状が悪化していくと、治療がどんどん困難になっていきます。そのため、早期発見と、早めのケアが大切なのです。
進行パターンで進行度合いをチェック!
AGAは様々な進行パターンがあります。大きく3タイプに分かれ、頭頂部から薄くなるO字タイプ、額の生え際から後退していくM字タイプ、前頭部からくるU字タイプがあります。
薄毛の進行度をタイプ別に計るために用いられている指標が、アメリカのハミルトン医師が提唱し、のちにノーウッド医師が改定した「ハミルトン・ノーウッド分類」です。これは、薄毛を額から進行するタイプと前頭部から進行するタイプに分け、進行度に応じて7段階のステージが定義されています。
「ハミルトン・ノーウッド分類」に皮膚科医の高島医師がアジア人に多く見られる進行パターン「vertex型」を加えたのが「高島分類」。「vertex型」は頭頂部からO型に脱毛していく進行パターンです。
判定指標の数字はⅠ型からⅦ型まであり、数字が大きければ大きいほどAGAが進行しており状況が悪化していると言えます。いずれの進行を辿っても、最終的にはⅦ型へと収束します。
毛母細胞がまだ生きている可能性が高いレベルⅢの場合、AGA治療の効果が出やすいと言われています。ご自身は現在どの状態に近いのかチェックしてみて下さいね。
AGAの原因
ではAGAはどうして発症するのでしょうか?その原因についてお話をしたいと思います。結論から申し上げますと、AGA(男性型脱毛症)の発症には遺伝と男性ホルモンが関与しています。
男性ホルモン
人の血中には男性ホルモン(テストステロン)が存在します。それ自体は全く問題なく、むしろ筋肉質な体型やがっしりした骨格などいわゆる「男性らしさ」を構成するために重要な性ホルモンです。
「テストステロン(男性ホルモン)」が血中から毛根に運ばれ、毛乳頭細胞にある「II型5α-還元酵素(リダクターゼ)」によって、「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変換されると、毛乳頭細胞に存在する男性ホルモン受容体(アンドロゲンレセプター)に結合します。
そのDHTが結合した男性ホルモン受容体は退行期誘導因子である「TGF-β」や「DKK1」などを誘導し、毛母細胞の増殖を抑制するのです。毛母細胞の増殖が抑制されると、その毛は成長がストップしてしまいます。
男性型脱毛症のヘアサイクル
髪の毛は生えては抜けるを繰り返します。このサイクルを「ヘアサイクル(毛周期)」と言い、「成長期」「退行期」「休止期」の3段階に分かれています。
「成長期」において軟毛の状態から硬い毛に成長します。成長期は通常2~6年ですが、ジヒドロテストステロンの影響により、成長期が数か月~1年と短縮されてしまいます。短い周期で抜けてしまう場合、硬い毛に成長する前に抜けてしまうため、次第に頭皮の地肌が見え薄毛が目立つようになるのです。
II型5α-還元酵素(リダクターゼ)は前頭部~頭頂部の毛乳頭細胞にある
テストステロンをDHTに変換させるII型5α-還元酵素は、前頭部~頭頂部の毛乳頭細胞にあります。後頭部の毛乳頭にある5α-還元酵素はⅠ型だけですので、AGAを発症する可能性が低いのです。
遺伝
「薄毛は遺伝する」とお考えの方は多いでしょう。実際、髪は毛母細胞から作られており、毛母細胞には両親から受け継いだ遺伝子が含まれているため、髪質や薄毛は遺伝すると言えますが、ただ「薄毛になる」という情報が遺伝するわけではありません。
遺伝によって引き継がれるのは、II型5α-還元酵素(リダクターゼ)の活性度と、男性ホルモン受容体の感受性の2つの遺伝子情報と言われています。
II型5α-還元酵素の活性は父からも母からも受け継ぐ可能性がある
先ほどの男性ホルモンの項で述べた通り、II型5α-還元酵素はテストステロン(男性ホルモン)をより活性したDHT(ジヒドロテストステロン)に変換する働きがあります。
そのため、II型5α-還元酵素の活性度が高ければ、薄毛になりやすくなるでしょう。II型5α-還元酵素の活性は、父からも母からも受け継ぐ可能性があります。
男性ホルモン受容体の感受性は母方から遺伝しやすい
男性ホルモン受容体の感受性が高い人というのは、DHTを取り込みやすい体質。その結果、退行期誘導因子であるTGF-βを増加させてしまい、抜け毛、薄毛の原因となります。
この感受性の強さは、母方の家系から遺伝しやすいです。そのため、母方の男性の親戚に薄毛の人がいると、自分も薄毛になる可能性が高いということになります。
アジア人男性で遺伝する確率は約50%
アジア人男性を対象に行った研究において、遺伝的に壮年性脱毛症を発症する確率は「約50%」という報告があります。つまり、親が薄毛だと子供も薄毛になる確率は2分の1。
※引用元:「印象派髪がすべて 大人髪のトリセツ」著者:伊藤廉同様の研究にて、イギリス人男性は「約69%」でしたので、アジア人男性はイギリス人男性と比べると、II型5α-還元酵素の活性度や、男性ホルモン受容体の感受性の遺伝によって薄毛になる人の確率は少ないと言えるでしょう。
AGAの治療法
AGAにはどのような治療や対処が有用なのでしょうか?公益社団法人日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」を見てみましょう。
※引用元:https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AGA_GL2017.pdf「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」が2024年3月時点で、この学会の最新版のガイドラインです。
ここでは、AGAへの推奨度をアルファベットの「A~D」で表しており、Aが「行うよう強く勧める」、Bが「行うよう勧める」、C1は「行ってもよい」C2は「行わないほうがよい」、Dは「行うべきではない」としています。
フィナステリドやデュタステリドという内服治療薬、さらにミノキシジルを含有したローションがA判定で、推奨されているのがわかります。A判定、B判定の治療方法について解説しましょう。
フィナステリド
フィナステリドはⅡ型5α-還元酵素の作用を抑えて、毛包のミニチュア化を防ぐ作用があります。フィナステリドを有効成分としている薬で有名なのは「プロペシア」です。
男性成人のみに効果
女性には効果が認められていません。妊娠中の婦人が本剤を服用したり、破損した錠剤に触れて有効成分が吸収されたりすると、男子胎児の生殖器官等の正常発育に影響を及ぼす恐れがあります。
男性機能低下、肝機能障害などの副作用が認められている
フィナステリドの副作用には性欲減退や勃起機能障害(ED)などの男性機能低下、肝機能障害などが挙げられます。国内で実施された臨床試験(1年間)において、4.0%(276例中11例)に副作用(臨床検査値異常を含む)が認められています。
服用をやめるとAGAはまた進行する
フィナステリドはあくまでも服用している間、 Ⅱ型5αリダクターゼを阻害するものです。服用をやめればⅡ型5αリダクターゼを阻害しなくなるので、薄毛はそこからまた進行します。
デュタステリド
フィナステリドがⅡ型5α-還元酵素のみへの阻害剤であるのに対し、デュタステリドは5-α還元酵素のI型、II型両者に対する阻害剤です。デュタステリドを有効成分としている薬で有名なのは「ザガーロ」です。
デュタステリドの副作用は、勃起不全や性欲減退、乳房障害、精液量の減少などです。さらにフィナステリド同様、妊婦に投与するとDHTの低下により男子胎児の生殖器官等の正常発育に影響を及ぼすおそれがあり女性への投与は禁忌となっています。
フィナステリドやデュタステリドの内服薬は、薬局では売っておらず、病院で医師の診察を得て処方してもらわないと購入できません。それだけ強いお薬ということです。つまり、効果はもちろん副作用も強いのです。
外用薬ミノキシジル
外用薬ミノキシジルは液状の塗り薬です。もともとは血管拡張効果があることから血圧降下剤として開発されたのですが、服用した患者さんの体毛が濃くなることが確認されたため、現在では薄毛改善の治療薬に用いられています。
ミノキシジルは血管を広げることにより頭皮の血流を良くします。すると毛包や毛母細胞にたくさんの栄養が供給され、毛母細胞の分裂が活発になり増殖し、強く太い毛髪へ成長するのです。頭頂部や前頭の薄毛に対して高い効果を発揮することが認められています。
ミノキシジルは血圧降下剤として開発されてものであり、血管拡張作用があることから、高血圧患者や狭心症をはじめとする循環器系の疾患を抱えている方の使用は注意が必要です。また、適用部がかぶれたり、痒みや赤みを伴うといった副作用も報告されていることから、もともと肌が弱い方や、過去に外用薬の使用からなるアレルギー反応を起こした方の使用も控えるべきでしょう。
ミノキシジル外用薬は含有量5%までのものであれば、ドラッグストアで購入できます。ドラックストアで手に入れられるミノキシジルの入った育毛剤はたくさんあり、リアップ、スカルプD、リゼラックコーワ、などがあります。60mlで5,000円~7,000円前後で購入可能です。
リアップX5 プラスネオ(60ml)
ミノキシジル5%と6つの有効成分、ピリドキシン塩酸塩、トコフェロール酢酸エステル、l-メントール、ジフェンヒドラミン塩酸塩、グリチルレチン酸、ヒノキチオールを配合した発毛剤。
ミノキシジルの内服は「D」で「行うべきではない」
日本ではミノキシジルの内服薬の有用性は認められていません。「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」でも評価はDの「行うべきではない」となっています。それにも関わらず、全身の多毛症を起こす副作用があることを根拠に医師が安易に処方したり、一般人が個人輸入で入手し服用することがあり、医薬品医療機器等法の観点から問題視されています。
LED低出力レーザーとLED照射
「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」において、2017年度版から新たに加わり注目を集めているのがLED低出力レーザーとLED照射です。これは頭皮に赤色のLEDを照射することで、毛乳頭細胞をはじめとするさまざまな細胞の活性化をうながし、育毛・発毛を促進するというものです。
630nm前後の赤色LEDは、波長の長い光で頭皮の奥深くまで到達するため、毛の根元にある毛乳頭細胞や毛母細胞などの髪の毛の成長にかかせない細胞を活性化する効果があります。活性化した細胞が、ターンオーバーを正常化し、育毛・発毛効果を発揮するとされています。また、痛みや熱さはなく安全性の高いもので、内服薬や外用剤との併用も可能です。副作用は少なく、皮膚の乾燥やかゆみを感じる方もほんの一部いる程度とされています。
自毛植毛
「自毛植毛」はAGAに侵されていない後頭部から健康毛を毛根ごと(頭皮ごと)採取し、AGA患部に移植する外科手術です。男性型および女性型脱毛症診療ガイドラインでは、有用性の試験は実施されていないものの、82.5%以上という高い生着率が報告されており、男性はBで「行うよう勧める」、女性はC1で「行ってもよい」としています。ちなみに人口毛の植毛はDで「行うべきではない」とされています。
自毛植毛は現在AGAの根本改善が可能な唯一の治療法です。移植手術が成功し、無事に生着すれば、メンテナンスの必要はありません。ただその分高額。範囲にもよりますが、40万~130万円ほどかかります。
また、痛みを伴い、後頭部には傷跡が残る可能性があります。ただ、周囲の毛が伸びてくれば傷跡を覆い隠してくれますので、それまでの辛抱でしょう。
AGAを治療するならどこに行くべき?
AGAは進行性の脱毛症ですので、早めに気づいて早めのケアを行うほど効果は出やすくなります。気になる方は、まずは専門家に症状を見てもらうことをおすすめします。
発毛を期待するなら皮膚科やAGAクリニックへ
「とにかくAGAによる薄毛をなんとかしたい!」という方は、薄毛治療を行っていることがホームページなどに明記されている皮膚科か、AGAを専門に扱っているAGAクリニックが良いでしょう。
「AGAの治療法」に記したような、フィナステリド、デュタステリドといった内服薬と、ミノキシジルの外用薬を処方される場合が多いです。ただし、先に述べた通りこれらの治療薬は副作用がありますので、お医者さんの話を聞いてよく考えてくださいね。
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薄毛=AGAではない|AGA以外の薄毛の原因とは?
ここまで男性型脱毛症、所謂AGAについてその症状や原因、治療方法についてお話しをしてきましたが、実は薄毛=AGAというわけではなく、原因は多岐にわたります。
AGA以外の薄毛の原因
- 喫煙
- 糖化
- 脂漏、フケ
- 間違ったヘアケア
- 頭皮の血液循環不良
- 過度のストレス
- 極端なダイエット
AGAの治療薬や治療法の中には、他の薄毛の原因には作用しないものもあります。ご自身の薄毛の原因は本当にAGAなのか、まずは専門家に診てもらうことをおすすめします。
下記のページでさまざまな薄毛の原因について記載していますので、良ければ参考にしてみて下さい。