フリーランス美容師の老後の実態!貧乏おじさんにならない節税とは?
現役時代はフリーランス美容師やプライベートサロンのオーナー美容師として、しっかり稼いでいても、老後蓄えが無く、年金受給開始年齢の65歳以降もセカセカとアルバイトをしている方が、実は結構いらっしゃいます…。
一方で、現役当時同じ年収でも65歳までに約5,000万円の貯蓄ができ、ゆとりのある老後を送っている方も。その違いは、実は“節税のやり方”だった⁉
2人のフリーランス美容師のお財布事情を、現役時代と老後時代で比較しながら解説します。
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ヤバい節税をするフリーランス美容師Aさん
Aさんは、25歳から都内の業務委託サロンで働くフリーランス美容師。指名客も多く、週5日労働で年収500万円稼いでいました。
「税金を払うのはもったいない!稼いでいるし、好きなファッションや飲み会にお金を使って、経費計上しよう!」と考え、会食という名目で、美容師仲間と高級な飲食を頻繁におこなったり、視察という名目で旅行へ行ったり、作業着という名目で高価な服を買ったりして、それらを経費計上していたAさん。そんな彼の年間収支は…。
Aさんの現役時代の年間収支
年収 | 500万円 | |
---|---|---|
経費 | 250万円 | |
所得 | 250万円 | |
基礎控除 | 48万 | |
社会保険料控除 | 国民年金保険料 | 約20万円※1 |
国民健康保険料 | 約25万円※2 | |
課税所得 | 157万円 | |
所得税(+復興特別所得税) | 約8万円※3 | |
住民税 | 約16万円※4 | |
生活費 | 108万円(基礎控除の48万円を考慮すると、実際は156万円が生活費) | |
貯金 | 25万円 |
Aさんは年収500万円に対し、経費として250万円計上しています。差し引き所得は250万円。所得額に応じて国民健康保険料がかかり、支払いが生じます。
控除
Aさんが受けている控除は「基礎控除」と「社会保険料控除」。
「基礎控除」とは、所得税額の計算をする場合に、総所得金額から差し引くことができる控除の1つで、実費はかかっていません。
「社会保険料控除」とは、支払った社会保険料の全額を所得から差し引くことができる控除のことで、Aさんの場合は「国民年金保険料」と「国民健康保険料」が対象。
課税所得
所得から控除や前年の保険料等を差し引いたものが「課税所得」で、Aさんの課税所得は157万円。
ここに「所得税」や「住民税」、「個人事業税」などがかかってきます。
所得税や住民税は課税所得にかかる
所得税は累進課税といって、課税所得が高い程、税率が高くなります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
課税所得が157万円の場合なら、所得税率は5%で済みます。かつ個人事業税を払う必要がありません。
その為、Aさんが支払う税金や保険料は、年収500万円の会社員と比べると少なくて済んでいます。ただし、貯金額も多くなく、年間25万円しか貯められていません…。
正社員雇用の美容室から業務委託契約の美容室に移って、手取りが増えた美容師さんの中には、Aさんのように「経費にすれば、税金対策にもなるから。」と理由をつけて、好きな洋服を買ったり、高級な飲食店に行ったりと、生活が派手になる方が結構います…。
Aさんの老後のお財布事情
Aさんが65歳になった時のお財布事情をみてみましょう。
老齢基礎年金受給額 | 月6.5万円/年78万円※ |
---|---|
現役時代の貯金額 | 1,000万円(25万×40年) |
Aさんは、国民年金は払っていたので「老齢基礎年金」は受給できますが、多くて月6万5千円。とても生活できる額ではありません…。
25歳から年金受給開始年齢の65歳までの40年間フリーランス美容師として働き、貯金額の合計は1,000万円。
日本人男性の平均寿命である84歳まで生きることを考えると、全く足りないでしょう。
経費で節税しまくった結果、70歳以降バイトをすることに…
上記のようなお財布事情のAさんは、年金受給開始年齢を過ぎてもしばらく美容師として働き続けました。
しかし、70歳になって顧客も減る一方…。限界を感じたAさんは、警備員のバイトもはじめることに。
週1日は美容室で指名顧客を担当し、週4日は警備員のバイトをして生計を立て過ごしています。
美容師現役時代は、飲食や買い物も好きなようにして楽しく過ごせていたAさん。しかし老後は受け取れる年金額が少なく、貯金も少ないため、バイトに勤しむ毎日に…。
フリーランス美容師は、会社員美容師とちがって厚生年金の自動引き落としがありません。その分自分で将来の備えをしなければいけないのです。
Aさんのように、「経費を増やしまくって税金を節約しよう!」と考えている方は要注意!
賢く控除で節税する、フリーランス美容師Bさん
Bさんも、Aさんと同じ都内の業務委託サロンで働くフリーランス美容師。週5日労働で年収は500万円と、収入もBさんと同じです。
ただ、Bさんは「老後2000万円問題」などのニュースを見て不安を感じて色々と調べ、早い段階から「控除を活用して、老後のための資産形成をしよう!」と考えました。
Bさんの現役時代の年間収支
年収 | 500万円 | |
---|---|---|
経費 | 100万円 | |
所得 | 400万円 | |
基礎控除 | 48万 | |
青色申告特別控除 | 65万円 | |
社会保険料控除 | 国民年金保険料 | 約20万円※1 |
国民健康保険料 | 約42万円※2 | |
国民年金基金 | 約10万円※3 | |
小規模企業共済掛金控除 | iDeCo | 約26万円 |
小規模企業共済 | 36万円 | |
課税所得 | 153万円 | |
所得税(+復興特別所得税) | 約8万円※4 | |
住民税 | 約15万円※5 | |
生活費 | 100万円(基礎控除と青色申告特別控除の合計113万円を考慮すると、実際は213万円が生活費) | |
貯金 | 30万円 |
経費は少ないため健康保険料は高め
Bさんが経費として計上したのは交通費や、道具代、エプロンなどの作業着、セミナー代金や新聞図書費、スマートフォンの使用量(家事按分)、他の美容師とのミーティング時のカフェ代や、職場の飲み会の参加費などくらい。そのため経費は年間100万円程度で済み、所得は400万円。
所得がAさんより高い分、国民健康保険の支払い保険料も高額ですね。
所得控除を活用して、課税所得を低く!所得税や住民税も少ない
Bさんは青色申告事業者で、青色申告特別控除65万円を受けられます。基礎控除と同じで、実際には使っていない額を所得から控除できるためとてもお得。
さらにBさんは、老後のことを考えて、個人事業主の退職金制度である「小規模企業共済」で月3万円(年36万)、個人型確定拠出年金「iDeCo」で月2.2万円(年約26万)、国民年金基金で月8,100円(年約10万)の積み立てを行いました。
小規模企業共済とiDeCo、国民年金基金は全て掛金が所得控除になり、かつ資産形成もできる大変お得な制度です。
所得控除を利用した結果、Bさんの「課税所得」は153万円となり、年収500万円の人にしては支払う所得税や住民税が少なくて済みました!
生活費と貯金額もAさんより多く!
Bさんは生活費が少なく、一見苦しそうに見えますが、概念として所得から引かれている「基礎控除」の48万円と「青色申告特別控除」の65万円は、実際には手元に残っているわけですから、213万円を生活費として使っても、年間30万円は貯金ができます。
Bさんの老後のお財布事情
所得控除を活用したBさん。結果、老後のお財布事情は以下の通りとなります。
老齢基礎年金受給額 | 月6.5万円/年78万円※1 |
---|---|
国民年金基金 | 月2万円/年24万円 |
現役時代の貯金額 | 1,200万円(30万×40年) |
iDeCoの積立金(運用利率3%) | 2,030万円※2 |
小規模企業共済金 | 1,770万円※3 |
終身年金は生涯ずっと受け取れる
老齢基礎年金の受給額はAさんと同じですが、Bさんは25歳の頃から「国民年金基金」に毎月8,100円積み立て続けたので65歳以降、毎月2万円の年金が支給されます。“終身年金”ですので、死ぬまでずっと毎月2万円を受け取れるのです。
死ぬまで定額を受け取れるプランがあるというのは、「国民年金基金」最大のメリットでしょう。
Bさんの合計資産は5,000万円に
Bさんの貯金額は、Aさんよりも年5万円多かったので、総額1,200万円になっています。
さらに、年間24万円iDeCoで積み立て投資を行った結果、運用利率3%で、積立額+運用益の合計が2,030万円になりました。
小規模企業共済も年間36万円積み立て、40年で1,770万円に。貯金額とiDeCo、小規模企業共済金を全て合計すると5,000万円です。
今回iDeCoは、運用利率の平均である3%で試算しました。運用成績が良ければ5%になる場合もありますが、悪ければ1%や元本割れの場合も…。
iDeCoはリスクがあるので、心配な場合は国民年金基金や付加年金に分散することをおすすめします!
計画的な資産形成で、のんびりとした老後に
Bさんは65歳で美容師を引退。その後は年金プラス5,000万円の貯蓄を切り崩しながら生活。
派手な遊びはできませんが、散歩をしたり、本を読んだりといったのんびりとした日々を送りながら、たまに遠出をしたり、友人とご飯に行ったりもできています。
厚生年金を受け取れない元フリーランス美容師さんでも、国が用意してくれた控除を上手に活用すれば、現役時代は節税しながら、老後も豊かに過ごせます!
知らなきゃ損する!節税しながら資産形成ができる控除
ここでは節税効果が非常に高い年金や共済について解説します。それぞれ特徴が異なりますので、ご自身のライフスタイルに合うものはどれか、考えてみて下さいね。
国民年金基金
自営業やフリーランスの方のための年金額を増やせる年金制度で、会社員が加入できる「厚生年金」の代わりになります。実施主体は、国の機関である国民年金基金連合会。
国民年金基金の掛金上限は月額68,000円で、掛金は全額「社会保険料控除」になり、節税効果が非常に高いです。
また、国民年金基金は基本、「終身年金」で、生きている限り年金を受け取り続けられるのが、最大のメリット。※2口目以降は確定年金もあり。
iDeCoと違い銘柄選びなどの運用指示が必要なく、加入時に決めたプランに応じて、老後に一定の年金を受け取れます。そのため、社会情勢や株に興味が持てない方にとっては楽ですし、元本割れのリスクがなく、手堅く資産運用したい方におすすめ。
ただし、その分運用益も少な目。同額同年数を積み立てていった場合、iDeCoで利回り1.5%を超えると、国民年金基金よりiDeCoの方が運用益が出て資産が多くなります。
また、あくまでも「年金」制度のため、受け取りは65歳以降(プランによっては60歳から)となり、簡単には引き出せない点もデメリット。
iDeCo
iDeCoは正式名称を「個人型確定拠出年金」と言い、自分が拠出した掛金を自分で運用し、資産を形成する年金制度。
掛金は国民年金基金と併せて、最大月額68,000円。実施主体は国民年金基金と同じ、国民年金基金連合会です。
国民年金基金と同様、国民がより豊かな老後生活を送るための資産形成方法として国が用意した制度ですので、掛金は「小規模企業共済等掛金控除」として、全額所得控除になります。
自分の運用成績次第で、受け取る額が大きく変わる
iDeCoの受け取り額は運用成績により変動します。元本が保証されている運用商品もありますが、元本が確保されていないものの方が多く、元本割れのリスクがあるのです。
リスクがある分、運用成績が良くなった場合は、多くの資産形成が出来る可能性もあります。
あくまでも「年金制度」ですので、受け取れるのは60歳以降です。75歳になるまでの間で選ぶことができます。
受け取り方法は、一括、年金、一括と年金の組み合わせの3パターンから選べます。
小規模企業共済
小規模企業共済は、国の機関である「中小機構」が運営する、小規模企業の経営者や役員、個人事業主などのための退職金制度。
月々の掛金は最大70,000円まで。500円単位で設定が可能。掛金の全額を「小規模企業共済掛金控除」として所得から控除できるため、高い節税効果があります。
退職・廃業時に受け取りが可能
共済金は、「退職」もしくは「廃業時」に受け取り可能。国民年金基金やiDeCoのように年齢による縛りがありません。
共済金の受け取り方は、一括、分割、一括と分割の併用が可能です。一括受取りの場合は「退職所得」扱いに、分割受取りの場合は公的年金等の「雑所得」扱いとなり、税制メリットもあります。
掛金の範囲内で事業資金の貸付制度を利用でき、低金利で、即日貸付けを受けることもできるのも、小規模企業共済ならではの特徴です。
迷ったら、国民年金基金、iDeCo、小規模企業共済で分散投資するのも手!
フリーランス美容師なら、国民年金基金、iDeCo、小規模企業共済のどれでも加入できます。
国民年金基金とiDeCOは、掛金の合計が月68,000円を超えない範囲で併用できますので、例えば国民年金基金に月3万円、iDeCoに月38,000円のように分散させるのも手。
小規模企業共済は掛金の上限が月70000円ですので、3種類合わせて月138,000円までならOK!
それぞれメリット・デメリットがあります。迷ったらリスク分散のために、Bさんのように分散投資するのも良いでしょう。
付加年金
付加年金は、月額400円を国民年金(老齢基礎年金)に上乗せして納付することによって、「付加保険料の納付月数×200円」の金額を上乗せした年金を受け取ることができるという制度。
付加年金は2年で元が取れるお得な制度ですし、年額4,800円の保険料も全額所得控除になりますから、フリーランス美容師さんにおすすめ。ただし国民年金基金に加入している方は、付加年金保険料を納付できません。
若い頃から控除を利用した賢い資産形成を!
よく、正社員美容室から業務委託美容室に移って、「収入が倍になった!」と喜び、生活も派手になる若手美容師さんを見かけますが、その発想は危険だということをご理解いただけたでしょうか?
老後、Aさんのようにバイト三昧の生活をしたくないのなら、若い頃から資産形成ができる控除制度を利用して節税することをおすすめします。
手取り20万円が40万円になったなら、全部使わないで5~10万円くらいは貯蓄や、国民年金基金、iDeCo、小規模企業共済などの資産形成にまわしてみては?
フリーランス美容師のみなさんが、金銭的に不安のない、良い老後をおくれますように!
この記事を監修した税理士
有限責任監査法人トーマツにて、上場会社・非上場会社の会計監査・内部統制監査に従事。その後、1万名規模の企業にて内部統制評価、2万名規模の企業にて経理業務に従事。いずれの企業においても、社内的に専門的な分野の制度説明や手順説明業務を多数実施。
現在は税理士法人エナリにて、年間100件を超える税務申告業務を実施する傍ら、税務相談業務を行っている。